【里穂side】


私は、奏音が家を去ると、美しい薔薇模様のカップに大好きなコーヒーを入れた。


ふぅ……
こんなもんかしら?
ああ、疲れたわ。



ピンポーン


あ、来た来た。

「今、開けるわね。どうぞー」
私は何事も無かったように顔をハンカチで拭き笑顔で迎え入れた。


「翼、コーヒー飲むでしょ?」


「ああ、ありがとう」
翼は、眼鏡を外し、鼻筋を押さえながら言った。


「はい、どうぞ」
同じく美しい薔薇模様のカップで翼に差し出した。


「ねぇーどうだった?私の女優ぶりは?」
したたかな顔色で翼に感想を求める。


「まぁ、80点くらいかな」


「なにそれ、低くない?玲於を上手く奏音の隣人にしたのは私なんだからね。まずはそこから褒めて欲しいわ」


そう、玲於が引っ越しするのを決めたことを知った時、私は一緒に物件を探しながら、立地条件がよく、モデル事務所が近い奏音の住むマンションを積極的に推進したのだ。


玲於は私の思惑通り、見事に奏音のマンションに決めてくれた。だから、この数ヶ月、私自身が奏音、玲於のマンションには本当は近づかなかったのだ。


「それより、奏音の様子はどうだった?」
翼はちょっと珍しく興奮気味である。


「部屋の散らかりを見て、かなり驚いていたわ。妊娠のエコー写真探してたと言ったら、納得してたよ」
私はコーヒーをひと口飲みながら半分笑い出した。


「妊娠なんかしてないのにね」