「セシル」

お茶会が終わり、邸の中に入って来た私を目くじらを立てたミハエルが仁王立ちで待ち構えていた。

「あら、どうかしましたか?」
「どうかしたかじゃない。
どうしてグロリアに意地悪なんだ」

あのネガティブバカ女、また何か吹き込んだな。

「心当たりがありませんが」
「お茶会だ。彼女を笑い者をしたそうだな」
「どのような話を聞いたのかは存じあげませんが。
今回の件、私の友人を招いてのお茶会に彼女が遠目から様子を伺っていたので私の友人が気を遣わして参加を促したのですわ。
それに他人を嘲笑うよな質の悪い友人は私の周りには居ません」
「ではなぜそのお茶会にグロリアも招かなかったんだ?」
「私の友人です。
その集まりになぜ妹を招く必要があるのですか?」
「彼女は体が弱くてお茶会や社交界にはなかなか出られないんだ。
可哀想だと思わないのか?」
「思いませんね。
体が弱い?いったいいつの話をしているのですか?
それは幼い時の話ですよ。
ここ何年も彼女は風邪ひとつひかないのですよ」
「だが、社交界とかは」
「あれは人付き合いを苦手としています。
社交界やお茶会に出席したがらないだけです。
それが女の仕事でもあるんですけどね」

反論の余地なし。
ミハエル様は黙ってしまった。

「グロリアが可愛いからとあまり甘やかさないでくださいますか。
お忘れのようですがあなたは私の婚約者ですわよ。
今のような態度が続けば不貞を働いていると取られても仕方がありませんわね」
「グロリアはそんなことをしない。
勝手な邪推はよしてもらおう。
気分が悪い。失礼する」

ミハエルはさっさと出て行った。

「セシル様」

執事のジークが来た。
彼が様子を見ていたのは知っていた。
何かあったらすぐに助けられるように準備していたことも。

「大丈夫ですわ。
報告があるのよね。
一緒に部屋へ行きましょう」
「はい」
私が言うとジークは嬉しそうに私の後ろをついて来た。

「お姉様、あの、先ほど下で騒ぎがあったのですか?
ミハエル様の声がしたのですが」

オドオドしながら部屋から出て来たグロリアが聞いてきた。

後ろにいるジークの機嫌が急降下するのが分かる。
私もグロリアに対して何も思わないわけではない。

「人の婚約者を誑かしておいてよく言うわね」
「そんなぁ、誑かすだなんて」
傷ついたように私を見つめ、涙を目に溜めるグロリア

「あら?違うの?
人の婚約者を自室に招く行為は不貞を働いているととられてもおかしくはないのではなくて?」
「だって、それはお姉様が」
「私が何?
あなたは勝手に人のお茶会に参加して、挙句まともな挨拶もできない。
おかげでいい迷惑を被ったわ。
私のお茶会に出ないのならもう少し見れる礼儀を学ぶことね」
「・・・・ひどい」

いったい何がひどいのかセシルには分からなかった。
対してグロリアは自分がセシルのように振る舞えないのは自分がセシルより美しくもないし体が弱いせいでセシルのように礼儀などの勉強がまともにできず、また社交界の経験が浅いからだと思っている。

「それでは私はこれで失礼するわね。
病弱だと言って部屋に引きこもっているあなたと違って私は忙しいので」