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レベンツキー伯爵領を出て、ひと月ほどが経ち、季節は夏真っ盛りである。

東への長い旅をしたラナの一行は、台地に小麦畑の広がるルーモン伯爵領に到着した。

この辺りは寒冷な気候で、七月下旬の今、小麦畑は黄金色の実り豊かに、収穫は間もなくという頃合いである。


広大な小麦畑を視察しているラナたちは、粉挽き小屋の水車が少々傷み、修理が必要かと思われること以外は特に問題ないと判断し、農村部から町へと入った。

中規模の町の中心部は、赤レンガを円形に敷き並べた大きな広場があり、石造りの時計塔がそびえるように立っている。

「この町のシンボルかの。立派じゃ」と、時計塔を見上げたイワノフが足を止めたら、ラナはもどかしそうに賢者の腕を引っ張った。


「十五時四十分だよ。おやつも食べてないし、お腹空いた。早く宿屋を見つけてなにか食べようよ」


それで五人は、広場の周囲で宿屋探しを始める。

しかし三軒の宿屋を見つけても、どこも満室と言われてしまい、これは困ったとラナたちは道端で話し込んだ。