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ラナが国王に直談判した日から三日後、わずかな共を連れた彼女は早くも旅路を歩いていた。

王都を出たのが二時間ほど前であり、見送りがひとりもいない中での出発であった。

なぜかと言えば、庶民のふりをしなければならないからである。

国王から課せられたミッションは、悪い噂のある三つの貴族領をお忍びで調査し、できれば問題を解決してこいというものだ。

王女の視察御一行様として、派手に旅をするわけにはいかないのである。


周囲に広がるのは、腰ほどの高さに成長した青々とした小麦畑と防風林。

晴れ渡る空の下、遠くにピリノア山脈をはっきりと臨むことができる。

この辺りはまだ王家の直轄領であり、見知った景色の中を、ラナは笑顔で歩いていた。

その格好は簡素な旅人風で、茶色のショートブーツに木綿の白いワンピース。

ミントグリーンのウエストを絞ったベストは、胸の前が編み上げのリボンで結ばれている。

長い髪はひとつに結わえて生成りの頭巾を被り、薄地のフード付きマントを羽織っていた。