ケータイ小説 野いちご

この作品のキーワード

やさしい彼女の眠りのために

トロイメライ

言葉が、武器だったのだ。自分を守るための。争いが嫌いな私が、それでも生き抜くための。

「よくイラつかないね」
「え、何で?」

とぼける私に、少しだけバツが悪そうな顔になる。けれどヤツはやはり引き下がらなかった。

「だってとろいでしょ、あの人。会話が続かない」

あの人。いつも少しだけ丸まっている背中を思い出す。さっきまで話していた彼女の背中は、他の学生たちの活気に気圧されて、どこにも見当たらなかった。

「ああ、まあ、のんびりはしてるね」
「のんびりとかのレベルじゃないよあれは」
「まあ、あんたも速すぎなんだよ」
「私別に速くないよ。フツーだよフツー」

彼女はとてもよく考える人で、だからこそ、言葉になるまでの時間が遅かった。ただ会話を楽しむということが苦手なのだろうな、という感じ。いつも何かに遠慮して、生きているようだった。

「あんたにはね。まあ、時間の流れ方が違うってことじゃない?私はわりと好きだけどな、あの子のテンポ」
「なんか私が悪者みたいじゃん」
「あんたとの、この殴り合いみたいな会話も楽しくて好きだけどね」
「絶対褒めてないよね、ありがとう先輩!」
「どういたしまして!」

酔ったような会話、だと思う。活気があって、賑やかで、楽しくて。

けれど、だからって、なにも彼女がそんな息苦しそうな姿勢で生きることなんてないのに。姿の見えない何かに、遠慮する必要なんてないのに。

ゼミが同じにならなければ、きっと話すこともなかっただろう。おとなしそうな女の子だったし、実際、おとなしい子だったし。

「あの」
「あれ、どうしたの?」
「あのね、伝え忘れたことがあって、あの、先生がね」

ゆっくりとした彼女の言葉は、早く伝えなければいけないと、焦れば焦るほど絡まっていくようで。

「ゆっくりでいいよ」

あまりに一生懸命な姿に、気付かないうちにこもっていた力が抜けて、私はいつも笑ってしまう。空気が、表情が、彼女の声とともにふわりと解けた。

「ありがとう」

彼女の使う言葉は彼女自身の雰囲気と似ている。ゆっくりと丁寧で、それはいつも温かかった。

2018.11.10---END.

< 1/ 1 >