3.流されるように

二週間行われた展覧会も今日が最終日となっていた。

こんなにも名残惜しいと思った絵画展はあっただろうか。

今日でこの絵ともさよなら。

お昼休憩時、早めにお弁当を食べ終えた私はまた絵の前に立った。

お昼時だけは来場者が減るから、ゆっくり観れる。

描かれたゾウは今日も穏やかな表情で私を見つめている。

美しい涙をキラキラと流しながら。

もうすぐ観れなくなるかと思うと、胸の奥がきゅっと詰まって思わず泣きそうになった。

絵と離れるってだけでこんなにも悲しくなるなんて馬鹿げてる。

そう思いながらも、目頭が熱くなり、一筋流れた涙を手の甲でぬぐった。

「どうぞ」

その時、ふいに横からハンカチを差し出された。

涙を手の甲で押さえたまま、私のすぐ横に立ってハンカチを差し出す人を見上げる。

「あ」

思わず目を見開いた。

ハンカチを差し出したまま、ゾウの絵を見つめているのは紛れもなくあの彼だった。

一ヶ月前に動物園で出会ったあの不思議な男性、吉丸 醍。

あの時は座っていてわからなかったけれど、思っていた以上に背の高い彼はようやく私に顔を向けて微笑む。

「涙、ふかないの?」