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 スーツ姿の男女が行き交うざわついた空気の中、ふと、その人が目に留まった。

 まるで水滴が足元に落ちるように、あるいは蒸気が空へのぼるように、私の目線は自然法則に従って彼を捉えた。

 そしてそれは、周囲にいる女性にとっても同じことらしかった。

 東京にある国際的なコンベンションセンターの大ホールを貸し切って開催されている転職フェアは、二十代から三十代くらいの転職希望者で溢れかえっている。

 男性も女性もほとんどがスーツやジャケットという『面接』を意識した出で立ちだ。

 可動式パネルで仕切られたこぢんまりしたブースで求職者を待ち構えている企業側の人間だって、男性はきっちりとネクタイを締めているし女性は落ち着いた色合いの服装の人が多い。

 そんな中、その人は異質だった。