ケータイ小説 野いちご

あおいぽりばけつ

木になった赤い実を見上げて何を思う?
私は、私は。

何の取り柄も無く息を吸い、吐いて二酸化炭素を製造するだけの毎日に、少し飽き飽きしていた。
周りは恋だバイトだ、喧嘩をして仲直りをしてと忙しなく日々を送る中、私は自分の存在価値を見失っていた。

ぼんやりと電車に揺られて、学校へ行く毎日に、嫌気すら感じていた。
刺激が欲しいとか、そういう事ではない気がしていたが、足りなかった。何かが。

「痛いのう。ワレ目ェ開いとるんか」

朝の混み合う駅のホーム。人に揉まれてぶつかった肩の痛みよりも先にそんな怒号が耳を痺れさせた。立ち止まりたくない気持ちを抑えて振り向く。

「なんじゃあ、耳聞こえんのかクソアマ」

季節は六月の少し前。低気圧がこの地域を覆いかぶそうとしだした頃だった。
いつもだったら、すぐに謝れる筈なのに今日はそうもいかなかった。スカートのポケットに忍ばせたサニタリー用品を握りしめ私はがなる。

「ぶつかったんはお互い様じゃろうが。あんたこそ目見えとんのか?」

けたたましく鳴る駅のベルに負けない様に、そう叫ぶと甘ったるい匂いがふわりと舞った。

「陸、女相手じゃ。……すまんのう。最近ずっとこんな天気じゃろう?こいつも気が立っとるんじゃ。許してやってくれんか」

黙り込みじっと私を睨み付ける黒髪の隣に立った茶髪の男が私の顔を覗き込み、一度小さく頭を下げた。腑に落ちないけれど、こんな所で揉めて面倒な事に巻き込まれるのは胸糞悪い。

「……いや、うちもよう見とらんかったし言い方悪かった。ごめんなさい」

時間も余裕も無い朝。ちらちらと視線だけを置き去りに通り過ぎる通行人が鬱陶しい。
誰に向けての苛立ちか分からずに私は不服そうにもう一度頭を下げた。後頭部に目が無くて本当に良かった。背中に感じる刺さる視線を踵で蹴散らして、それで全ておしまい。最悪の一日の始まり。
ただそれだけだと思っていたのだ。その時は。

< 1/ 82 >