【央寺(おうでら)くん、教室でふたりだけになった時のことを覚えていますか? あの日に話したこと、あの日交換した本、どちらも私の宝物です。私はあの時から、央寺くんのことが好きです】

 中学3年の時、“書くだけラブレター”が女子の間で流行っていた。
 よく一緒にいたグループ内では、それぞれ好きな男子を公表していたから、あたかも本当に告白するように恋文を書いては回し読み、恋心の共有をして疑似的な恋愛を楽しんでいた。

 本当は苦手だった。ときめく少女漫画や小説、アイドルの動画のように簡単に盛り上がれる娯楽の題材として、自分の恋心など教えたくなかった。
 でも、あのせまい教室の中では、輪を乱さないことが何よりもが大事だったから、嫌われたくなくて仕方なく書いて見せたんだ。

『うわっ、オウジ! これ、ラブレターじゃん!』
『誰だよ、こんな古風なことすんの? すげーな、オウジ』

 もちろん“書くだけ”で、本人に出さないことが大前提の遊びのはずだったのだけれど。