新しい季節をむかえて、たくさんの森の木が、いっせいに新しい葉を出して、むせかえるようなよい香りをだしているとき、少女は種をまいていました。インゲンまめ、かぼちゃ、オクラ、カブ、夏の収穫を楽しみに、一つ一つ、ていねいにまいていました。
 種をまくまえ、少女は、なんども、なんども、土をたがやしていました。まだ雪がちらつくような寒い日も、上着をぬいでも、汗をかいてしまうような暑い日も、おじいさんとおばあさんを助けて、少女はいっしょうけんめいにはたきました。少女のお父さんとお母さんは、小さいころに病気でしんでしまって、おじいさんとおばあさんとくらしていました。
 森にはときどき、よその人が通りました。
「森の中で、ごふべんはありませんか」
 親切な人は、そのようにききました。
「ありがとうございます。おかげさまで、きれいな空気とみどりのなかで楽しくくらしています」
 おじいさんは、ていねいにこたえました。
「それはよいですね。では、お気をつけて」
 にこやかに親切な人は、通りすぎていきます。
 なかには、いじわるな人もいました。
「あっはっは!こんな森の中にすんでいるやつは、何にもできないだろう!」
 そんな人にも、おじいさんはていねいにこたえました。
「できないことは、そのときどきに、森が教えてくれます」
 いじわるな人は、まだいいます。
「森が何を教えてくれるんだ? 森は、金もうけのしかたを教えてくれるのかい?」
「お金というゆたかさはありませんが、森のゆたかさは、たくさんあります」
「あっはっは! そりゃいいね!」
 おじいさんと、おばあさんは、こんなふうにいじわるな人を気にとめないようにしていました。