(ああっ、まさかまた城の中で迷うなんて)


オースティンが謝罪にやってきた翌日の午後のこと。

薬品が入った箱を抱えたメアリは、不安げな足取りで回廊を歩いていた。


(医務室へ戻るのに、近道しようだなんて考えが甘かったわ)


そもそも地下倉庫という慣れない場所にも関わらず、入室した扉とは別の扉から出たのが失敗だった。

性懲りもなく迷子になってしまった自分を叱咤しながら、メアリは城の中を彷徨う。

運悪く使用人や兵士の姿も見えず、どうしたものかと足を進めていた時、微かに聞こえてきた声に気付き、メアリは足を止めた。

誰かいるのなら助けてもらおうと、声のする方へと一歩一歩前進していくうちに声はさきほどよりもはっきりと聞こえ始める。

けれど回廊に人の姿は見当たらず、よく確認すれば扉が僅かに開いている部屋が目に止まった。

普段はこんな場所まで訪ねることのないメアリは、一体なんの部屋なのだろうと更に近づく。


「聞いたところによれば、退却用のルートまで待ち伏せされていたそうだな」


よく通る少ししゃがれた低い声。

聞きなれないその声が紡ぐ不穏な言葉に、メアリは思わず息をひそめた。