雨はいまだ、アクアルーナの大地を叩きつけている。

泣き腫らした瞼を持ち上げて、椅子に座るメアリは濡れる窓に視線をやった。

外はまだ暗く、医務室の柱時計の針はようやく日付が変更したことを示している。

ここに来てすぐにジョシュアが淹れた紅茶はすっかり冷めてしまっていた。


「メアリ、眠かったらそこの寝台で横になっても構わないからね?」


机に向かい、死亡診断書にペンを走らせるジョシュアがメアリを振り返り気遣う。

けれど、メアリはゆるゆると首を横に振ってから、ジョシュアが花瓶に挿してくれたルクリアの花を眺めた。

心も体も疲れているし、瞼も重く感じる。

それでも眠気は襲って来ない。

ただあるのは、尊敬するアクアルーナ国王の死と、王が自分の父親だったというふたつの事実。

どこか遠くにいると信じて疑わず、ずっと会いたいと思っていた父がすぐ近くにいて、小さな頃からメアリを見守ってくれていたのだ。


(王様は……父様は、どんな気持ちで私と接していたのかしら)


嬉しかったのか、寂しかったのか。

穏やかで思いやりのある王だ。

父と告げることが叶わず、苦しかったのかもしれない。

想像し、降りしきる雨の音を聞きながらメアリが胸を痛めた直後、医務室にノックの音が響き白い木目の扉が開く。

現れたのは、崩御した王の遺体を安置するため、城の北に建つ礼拝堂に赴いていたイアン侯爵だ。