「セリは、俺といる理由なんて探さないでいいんだから。何も考えずに俺を欲しがればいい」

「・・・アキラさん、でも」

「俺はセリにあげたいだけだよ。それで満足してる」

わたしに求めるものはない。・・・アキラさんは淡く笑んで。

優しくて居心地が良くて。離れがたいって思う時もある。
抱かれていると、まるで愛されてるみたいに勘違いしそうにもなる。
アキラさんが凪だったら、・・・って。
笑って抱き締めてくれるたび、身代わりの温もりを求めてた。
掬われてた。行き場のない思いを受け止めてもらえたこと。

迷路の出口を自分で探そうと思えばそう出来たのを。アキラさんに逃げ込んで、探さない理由を作ってたの。
お見合いの話を聴かされて、凪以外の誰かとなんて考えもつかなかった自分に。・・・わたしはどうしたって凪を好きなんだって、あっけなく出口に辿り着いてた気がした。

だからもう。自分を甘やかすのはやめる。・・・そう思ってアキラさんに会うのを決めた。今日で、終わりにする為に。

「・・・・・・アキラさん」

膝の上の自分で握り締めてる両手をじっと見つめ、言葉を探した。

「・・・会うのは今日で最後にしようと思うんです・・・」

「どうしたの・・・急に」

アキラさんはわたしの髪を撫でながら。柔らかな声で。子供をあやすように。

「理由を訊いてもいいかな?」


一年前。凪に拒まれて、ずっとぼんやりと同じ場所で座り込んでいたわたしに声を掛けてくれたアキラさん。
風邪を引くからって、すぐそばの珈琲ショップに連れて行ってくれて『話せば楽になることもあるよ』って。優しく慰めてくれた人。あの時も今も。ぜんぜん変わらない。