私が、芦ノ湖から帰ってきたのは、約束の時間の1時間前だった。

シャワーを浴び、着る予定だったドレスをクローゼットに入れ、いつも着ない少し明るめのスーツを手に取った。

これでいい。

専務に見られても、まさかパーティに行かないとは思わないだろう。
いつもより、少しメイクも変えた。

鏡を見て思う。
これでいい、いいよね?涼香。
専務に関わってはいけない、ね?

よし、行こう。

私は、さっきまで乗っていた車で会社まで向かった。

心が死んでいくのが分かった。

好き。だと、気がついて答えを出す前に、その気持ちを抑えなきゃならないなんて…

17時過ぎに、会社に着いた。


今日は土曜日。
会社は休みで、いつも人が行き交う受付付近には誰もいない。
玄関に警備の人がいるだけ。
IDカード見せ、入れてもらった。

役員専用のエレベーターに乗り込んだ。そして20階のボタンを押した。

ふー。
ため息が自然と出た。


もう少し、頑張れ。

静かにエレベーターは動き出した。

すぐに20階に到着。

意を決して、専務がいるであろう部屋をノックした。

コンコン

「はい」

「高瀬です。遅くなりました」

「入れ」

「失礼します」

扉を開けると、そこにはタキシードを身にまとった素敵な専務が笑って立っていた。