普段、人を褒めたり、認めたりするような事をしない匠が1日して「ただもんじゃない」言わしめた、高瀬涼香に俺は少しながらも興味を持ち始めていた。

朝、急な呼び出しがかかった。

「これじゃ、会社は遅れる事になるな。電話だけ入れておくか」

電話をかけようとして、高瀬、自分の秘書の携帯の電話番号を聞くのを忘れていた事に気がついた。

「仕方ない、直接かけるか」

専務室直通の高瀬のデスクに電話をかけた。

今日の予定を確認すると、すでに1日のスケジュールは把握していたようで、的確に答えてくれた。

電話が終わった後、匠がただもんじゃないと言ったのが分かったような気がした。

秘書の経験がないと言っていたが、スキルは持っていたのであろう、そう感じられた。


少し遅れて会社に着いた俺は、専務室から出てくる匠に出会った。

「おはよう、蓮。番号教えておいたよ」

「あ、すまん。今日も変わりはないみたいだな」

「ふっ、まぁね。昨日は早速秘書室で洗礼受けてたから、慰めといたけど?彼女面白いね。育て甲斐があるよ。やっぱり蓮の秘書にしとく?」

「な、何言ってんだよ。当たり前だろ。ん?洗礼って、ちょ、慰めってなんだよ!」

「まぁ、いろいろと。じゃ、社長がいないから俺忙しいんで」

匠は、不敵な笑みを浮かべ、手をヒラヒラと振って行った。

なんなんだよ。

昨日、俺の秘書になった高瀬の事が気になっているのか?
妙に匠が関わると、モヤモヤしたものが湧き出ていた。

しかも、部屋の中に入ると、顔を真っ赤にして明らか動揺している高瀬がいた。

何やったんだ、匠のやつ…


聞く訳にもいかず、気をとり直し今日の予定を確認した。

あれだけ、動揺していた高瀬だったが、予定や会食の場での相手に対する気の配り方等、匠が先に根回しはしたとは言え、そつなくこなしている彼女を見て正直驚いた。


「参ったな…」

口から言葉が漏れていた。