会社に行きたくない、と思っても時間は無情にも過ぎていく。

誰も、休んでもいいよ。とは言ってくれない。

私の秘書生活が、昨日から始まっていた。
まだ、1日しかやっていない秘書だから、なんとも言えない。頑張るしかないのだから…

今日は昨日とは違うスーツにしてみた。何着も持っている事もアピールしておかなければ…秘書室の女狐たちが足を引っ張ろうとするから。

グレーのスーツに着替え、気持ちを入れ替えた。

着替えながら、昨日の氷室室長に言われた事を復唱していた。



「行ってきます!」

返事のない部屋に挨拶をして会社に向かった。

「ふー、今日も頑張るか」

会社の前で気合いを入れた。

ここ、如月商事は8階に秘書課があり、9階に常務室と会議室、氷室室長の部屋がある。そして最上階の10階に、社長室と専務室があった。

秘書課の人間は、8階までしか行く事を許されていない。行けても9階まで。役員秘書専属にならない限り10階には、行けないのだ、

そして、8階の秘書室にある役員BOXから担当する役員の必要な郵便物や書類を持っていく。

それを選別し、開封して役員室に持っていく。
そして、今日1日のスケジュール調整を行う。
如月専務ともなれば、動きは分単位だろう。

昨日は、氷室室長と一緒だった事もあり、一人で足を踏み入れる秘書課は異様な空気が流れていた。

行くぞ、私。

「おはようございます」

挨拶をしながら、秘書室に入っていく。
顔は上げているが、周りを見る余裕はなかった、
役員BOXを開けて、郵便物等のチェックをしていると、鼻につく香水の匂いがしてきた。

「あら、おはよう。高瀬さん。秘書の仕事って大変でしょう?無理だったら早めに言う事ね。如月専務の足引っ張らないでね」

この匂いの持ち主、秘書課の乾志帆が声をかけてきた。