「おかえり、蓮。割と早かったな、もう少しかかるかと思ってたけどな」

「一応、ただいま。になるのか?なぁ匠、男相手に言っても楽しくもねーよ」

如月商事のフランス支社から、戻ってきた俺は、社長秘書をしている匠と話をしていた。日本で仕事する上で、秘書をやってもらおうと思っていた。それなのに…

匠は、

『無理』

と、一言だけ。
蓮の秘書をするって事は、今やっている社長の秘書を誰かに振らなければならない、いまの秘書課にやれる人間がいない、と。
まぁ、確かにそうだよな、だからと言って今まで専務秘書やってた奴に、俺の秘書が務まる訳ない訳で…
それを分かった上で、匠は無理難題をぶつけた。

「探せよ?秘書課にいるだろ?選び放題だからさ」

「お前さ、社長の秘書も任せられないって言っときながら、俺の秘書が見つかる訳ないだろ?それに、専務秘書だった、あの女誰だっけ?名前も覚えてねーけど、あんな頭空っぽな秘書はいらねーよ!」

匠はニヤッと笑って続ける。

「おやおや、専務がそんな言葉遣いでは困りますね」

バンッ

デスクを叩いた。

「匠、冗談で言ってるんじゃないんだ。まともにフランス語話せる奴いないだろ?みんな英語ばっかりじゃないか」

「まぁ、フランス支社が出来たのが2年前だから、仕方ないと言えば…」

分かってる。
元々、アメリカ支社の方が先に出来たから、英語が話せる職員が多いのは分かっていたが、フランス支社が出来た時に、話せる人間を少しでも増やしていて欲しかった。

コンコン

「はい」

誰だ?

『元気かい?蓮!』

フランス支社長のルイ・パトリシアがテンション高く両手を広げて入ってきた。

『ルイ!なんでルイがいるんだよ』

相変わらずの陽気なフランス人だ。

「あれ?さっき話したじゃないか、フランスから支社長が来てる事」

秘書の事で、すっかり聞き流してしまっていた。

『蓮!ちゃんとフランス語話せるスタッフいるじゃないか!よかったね。あの子だったら安心して、俺も蓮も仕事が出来るよ!』

『は?』

二人同時に声が出ていた。