声にならなかった。

「高瀬、お前だろ?高瀬だって言ってくれ」

「……っ」

専務に後ろから抱きしめられた手が、強くなる。

「…確証がなかった、だが、さっきので確信した…俺が悪かった」

「…せ、専務…」

後ろから抱きしめられていた私を、専務が振り向かせた。そして力強く抱きしめた。
私も持て余していた手を、迷いながら専務の背中を抱いた。

「高瀬…」

見つめあった私達は、お互いの存在を確かめるようにキスをした。何度も角度を変えて…

「はぁ…」

「高瀬…好きだ。知り合った時間なんて関係ない。お前が好きなんだ」

「…うっ、せ、専務…わ、私…」

もう、声にならなかった。

「遅いのか?見合いしたって言ってたな。もう、お前を手にする事は遅いのか?高瀬!」

言葉が出ずに泣き噦る私を、専務はリビングに抱き上げて連れて行った。

そして、私の背中をさすりながら、言った。

「…困らせて、ごめん。カッコ悪いよな。気がつかなかった俺が悪い…」

私はただただ、泣いていた。


「もう言わない、少ししたら、会社に戻ろう、な?」

違う、そうじゃない、専務。


私は泣きながら首を振った。

「…ち、違…う」

「え?」

「わ、私も好きで、好きなんです。専務の事が…」

「え?ほんとか?」

抱き寄せていた私の体を離して、顔を覗きこんだ専務の表情は、今まで見たことのない不安な顔をしていた。

「好きなんです、専務の事が…」

「高瀬っ…」

もう一度、強く抱きしめられた。
そして、今日何度目だろう、熱く長いキスをした。