兄に連れられて1年振りに実家に帰ってきた。

久しぶりに、入る玄関の大きさに圧倒されていた。

「どうしたんだよ?自分の家だろ?」

「こんなに大きかったっけ?この家」

「ハハッ。1年振りってそんな感じになるのか?」

「涼香お嬢様、おかえりなさいませ」

「蓼科さん…ただいま」

車から降りた私を、蓼科さんが笑顔で迎えてくれた。


そう。
私の家は、会社を経営している。
兄が跡を継いでいるけれど、その事で私が大学を卒業する時に揉めた。
…で、家を出た。

「何やってんだ、行くぞ?」

兄の後を追って、家の中に入った。
リビングに行くと、父と母がソファに座って待っていた。

両親を前にして、凄い緊張感に襲われる。

「涼香、久しぶりだね。1年か、元気にしてたのか?」

何、この緊張感。
これは家族の団欒じゃなくて、面接だよ、面接。

「なんとか、仕事にも慣れてきたから」

「そうか。それならよかった。あの時は、会社に必要だと思ったから、如月に行く事を反対したが、今じゃそれは思っていない。だがな、専務秘書をしてると言うのは本当か?」

「……」

「聞こえないな、本当なのか?」

「はい、そうです」

「総務課じゃなかったのか?」

「フランス語出来るのがバレたらしいよ」

横から兄が会話に加わった。
父の表情が変わった。

「そうか、何のために離れたのか分からんな?そうじゃないか?」

図星だった。

「はい、でもやっぱり私の居場所ではないから、辞めようかと思ってます」

「そうなのか?」

父が話す前に、兄が割って入ってきた。

「あ、うん。やっぱり秘書は向いてないな、って」

「そうか、じゃ、落ち着いたら帰ってきなさい、いいね?」

「え?」

「涼香、ゆっくりでいいから、考えてみて?悠貴のフォローもしてほしいわ」

「お母さん…」

「じゃ、これくらいにして。あとは瑠璃の話ね」

母がわざと話を変えた。
なんとなくだけど、母はまだ私が決めかねてる事に気がついたんだろう。
父も母に言われるままに、瑠璃の事に話を変えてくれた。