「....はい。これ...」


「あっ...ありがとう...ございます....」


日は沈みかけ、空に黒が染まっていく公園で、依奈は佐々木に温まっているココアの缶を手渡した。佐々木は両手で受け取ると、すぐ飲むのではなく胸の所へ引き寄せてその温もりを味わっていた。

依奈は自分の分のココアを開けて一口飲むと、佐々木の横へゆっくりと腰を下ろした。

二人は並んで座ったのはいいものの、そこに会話が生まれることは無かった。二人はこれまでまともに会話をしたことがない上に、さっきは抱き合って泣いた仲。
気まずさを覚えるよりか、恥ずかしさがあった。

変な空気が流れて無言が続く中、先に口を開いたのは佐々木だった。


「あの...さっきはすいませんでした...」


「え?さ、さっきって?」


「カラオケの時です...千澤さんは私のために言ってくれたことなのに...私は...」


「あっ!いいよそんなの!....佐々木さんの言いたいこと、私にもわかる。言葉にしてみると本当に抜け目がないっていうか...自分の身を安全に守るのってそれしかないって...
あんな偉そうなこと言ったけど、佐々木さんは間違ってないんだと思う。」


佐々木は依奈から目線を逸らし、蓋の開いていない缶をじっと見つめていた。目を潤し、グスグスと鼻水を啜っていた。


「え?ど、どうしたの?」