【金曜、空けておいて】


穂積課長からトークアプリでそんなメッセージが届いたのは、それから二週間ほどが経った十月末の水曜日の夜のこと。
あんな思わせ振りなことをしておいて、花の金曜日の夜のスケジュールをそんな文言だけで取りつけられると思うなんて! と心の中では可愛げのない独り言を零しながらも、手帳にちゃっかり予定を書き込むあたりが単純なのかもしれない。


「莉緒、今晩飲みに行かない? ここのところ忙しかったけど、今日は早く上がれそうなの」


ランチからの帰り道、多恵に笑顔を向けられた私は、返事が遅れてしまった。
だって、今日は金曜日で、課長と約束している日だから。


「あ、都合悪い?」

「えっと、うん……ごめんね?」


私の表情ですぐに察したのか、彼女は答えを聞く前に微笑んでくれた。
「気にしないで」と言われて、もう一度きちんと謝罪の言葉を紡ぐ。


「ううん、私の方こそ急に誘ってごめんね!  仕方ない、恭輔に訊いてみようかなー。恭輔より、莉緒と飲みたかったんだけど」


冗談めかしたように笑う横顔につられて、思わず小さく噴き出してしまった。