辺り一面のチューリップ畑。


赤、ピンク、黄色、オレンジ、白…何種類もの色が順番に並んでいる。


わたしはお花のなかで、堂々と可愛らしく咲き誇るチューリップが小さい頃から大好き。


『胡春』


だれかがわたしの名前を呼んだ。


この声、知ってる。


『胡春』


さっきよりもはっきりと聞こえてきた。


わたしはチューリップを眺めている目線を後ろにやった。


そこにはさっきと変わらないチューリップを背景に、“彼”が微笑んで立っていた──。


彼はわたしに一歩一歩と近づいて……ゆっくりと、顔を近づけた。


ドキドキと鼓動が速くなる。


彼の透き通るように綺麗な黒い瞳と、目線が交わった。


次に、彼はゆっくりとわたしの唇に瞳を落とした──。


それだけでわたしはもうとらえられたように動けなくなる。


きっと、なにされたって、反抗できない。


彼はそっと、引き寄せられるように唇を近づけた──


「胡春、起きなさい!遅刻するわよー!?」


ドンドンドン!


んん?


「いつまで寝てるのっ!?」


ドンドンドン!!


「世良く…………ハッ」


目覚めたわたしは、ガバッ!と勢いよく起き上がった。


扉の向こうのお母さんが去っていく足音が聞こえてきたと同時に、頭が冴えたきた。