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生徒会長時給850円!

文化祭

約束の11時前。私は胸を弾ませながら、夜宵君のクラスに向かった。

学校内は色んな出し物やお客さんで賑わっている。人混みをかき分けながら、少し早足で進む。

「夜宵君、早く会いたいな……」

人知れず頬を緩ませていると、教室の前にめちゃくちゃマッチョな生徒がいた。小島先生以上かもしれない。そのマッチョは、私の顔を見るなり、ハイテンションで私に話しかけた。

「あ! 生徒会長! こちらに寄っていきませんか?」
「あ、ああ…………」

そのつもりだよ、マッチョ君。それにしてもこの男子生徒、背もかなり高い。180cmは余裕である。そして白い歯が眩しい。

「会長って名前何でしたっけ?」
「え!? あ、エミリオ・ハライドヨーク・シノヴィアだ」
「あー、そうでしたね! エミリオさんだった」

私の偽名に、彼は眉一つひそめずに笑った。うむ、この名を受け入れてくれるとは、実に素晴らしい。

「ちなみに俺は2年3組の木下っす!」
「木下君か、よろしく…………ん?」

2年3組の木下君…………どこかで聞き覚えが…………

「あ! もしかして君、文化祭の昼ご飯に、おにぎり30個注文しなかったか!?」
「はい! 頼みました! 流石生徒会長、よく知ってますね!」

そうだ、私がバザー券の仕事をしていた時、紙に彼の名前が書いてあったのだ。確かにこの見た目からして、よく食べそうだ。

「しかし、一体何人でおにぎり30個食べるんだ?」
「親父とお袋と俺の3人っす! 1人10個ずつで!」
「食べすぎだろ! 君はともかく、両親もそんなに食べて大丈夫なのか?」
「はい! うちはみんな大食いなんで! お袋はその割にガリガリっすけどね!」

何ということだ。しかもお母さんは痩せているという。食べた分増える私にとって、羨ましすぎる。

木下君と会話を交わしていると、部屋の中からある男子が現れた。

「あ! エミリオさん! 木下君!」
「夜宵君……!」

いつものように明るいスマイルの夜宵君。だけど、いつもと違って、魔法使いのような格好をしている。可愛らしい帽子に、裾の長い衣装、そして手作りのステッキ。

何と言うか…………萌え。超萌え。おはようとおやすみの挨拶をしてもらいたいくらい萌え。……とにかく可愛すぎる!!

鼻血が出そうになるのを必死におさえ、私は平然を装った。

すると、木下君が夜宵君に話し始めた。

「夜宵君って、会長の名前知ってるんすね!」
「うん! 生徒会室によく行くからね! ……あ、エミリオさん、この人はクラスメイトの木下君! 席が隣同士なんだー」

夜宵君に紹介され、木下君は「よろしくっす」と一礼した。私も軽く礼を返し、再び2人を見た。思い返してみれば、いつか夜宵君が、「隣の席に筋肉質な男子がいる」って言ってたな。恐らく、木下君のことだろう。

「木下君はね、美術部に入っていて、すっごく絵が上手いんだよ!」
「へへへ、照れるっす。この前は、夜宵君のお願いで、『厨二病探偵コージ君』のイラストも描かせてもらったっす!」
「ええ!? び、美術部!?」

これまた驚いた。てっきり運動部かと思いきや、まさかの美術部とは。しかも厨二病探偵コージ君のイラストって……見てみたい。

夜宵君は部活には入ってないと言ってたな。前の高校でも入ってなかったはず。

楽しそうに話す2人を見て、私は安心した。夜宵君の笑顔は、誰に対しても同じ……きっと心からの笑みで……。

「エミリオさん! 僕の占いに付き合ってもらってもいい?」
「……あ! ああ、もちろんだ」

夜宵君の優しい声で私は我に返り、受付係の木下君に手を振って、教室に入った。





夜宵君のクラスは占いをするようで、部屋がやや暗く、多くの生徒が魔法使いのコスプレをしていた。カーテンも黒色になっており、怪しい雰囲気が、私の厨二心をくすぐる。

「じゃあ、ここに座ってもらっていい?」
「わかった」

夜宵君に促され、私は椅子に腰掛けた。目の前には、綺麗な水晶がある。さらにその奥には、夜宵君がいる。

「エミリオさんを占ってみるね!」

そう言って、彼は手袋をした手をかざしながら、水晶に真剣な眼差しを向けた。その目はまるで水晶のように透き通っていて、思わず本物の水晶に目を落とした。

私の今後……一体どんな結果が出るのだろう? それも、好きな人に占ってもらうって……。

しばらく沈黙が続き、私は水晶を見つめたまま、夜宵君を思い浮かべていた。

「よし! できたよ!」

彼はまた私に笑いかけた。さあ、どんな結果が……。私はごくりと唾を飲み込み、その微笑みを凝視した。すると、彼はもう一度、真顔になった。

「えっとねー…………今日、何かが起こる気がする!」
「今日……」
「そう。今日、きっといい意味で、何かが変わる気がする……」

変わる……。夜宵君の表情は真面目で、私の心に“変わる”という言葉がしみた。

本当に今日、何かがあるのかもしれない。いい意味で……。何かを期待してもいいのだろうか?

そう考えていると、夜宵君がにこりと微笑んだ。

「……って、素人の僕の勘だから、全然信じられないよね! あくまで僕の予想だから、そんな重く受け取らなくて大丈夫だよ!」
「……いやいや、ありがとう。期待しておくよ」

私も小さく笑った。今日は文化祭だから、何かが起こる可能性は高い。それがどんなことかはわからないけど、いいことなら……なんて、胸を高鳴らせた。

「それから……はい、これ!」

夜宵君は箱の中から小さな紙を取り出した。何やら、かっこいい魔法陣のようなものが書いてある。

「それは、占いに来てくれた人に渡すんだ。お客さんに、悪いことが起こらないようにって! 僕の手作りだから、特に何のパワーもないし、捨てても罰当たらないから大丈夫!」
「いいや、大切に保管するよ。ありがとう。……それにしても、これ自分で描いたのか? めちゃくちゃかっこいいんだが……」
「えへへ、ありがとう! 僕が描いたけど、原案は木下君だよ!」

木下君も夜宵君もすげえ! アニメに出てきそうなほど高クオリティーだ。色使いも最高だし、これなら敵キャラもぶっ飛ばせそうだ。

いいこと、か。今こうして話していることが、すでにいいことだけど……変化があるのか……。

私はもらった紙を両手で包み、期待をそっと胸に抱いた。

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