ケータイ小説 野いちご

この作品のキーワード

生徒会長時給850円!

生徒総会

翌日。

「あれ? 美世ちゃん、今日学校行くの?」

制服姿で階段を降りた私に、伯母さんは聞いた。

「う、うん。ちょっと用事があってな」

ちょうど1週間後が生徒総会で、それまでバイトは少ししかない。ちなみに今日は休みだ。

私は朝ご飯をささっと食べて食器を運び、支度を済ませた後、家を出た。昨日の出来事がなかったら、私は今日学校に行っていないであろう。本当は、用事なんてない。ただ、会えるかな、なんて……。



そして昼休み。私は売店で買ったパンを抱えて生徒会室に入った。当然、誰もいない。戸を静かに閉め、ソファーに座り、パンを一口かじった。

「今日もご意見箱はゼロか……」

頬杖をついて、昨日の2枚を眺めた。1枚目は……私の正体を明かす訳にはいかない。2枚目……夜宵君の字……特徴がある字ではないが、彼が一生懸命書いている姿を想像すると、何だか愛しい。彼の興味は、この生徒会の噂(笑)の真相だろうが……。

気づけばパンは残り一口。別に、1人でいることなんて慣れている。空っぽになった袋をカシャカシャと音を立てて小さく折りたたみ、近くのゴミ箱に捨てた。ため息をついた後、マスクを上にスライドさせ、これからのことを考えた。

「このままだと、まともな意見が1つも集まらずに生徒総会を迎えるぞ。ってか、集まらなかったら生徒総会自体なくなるか。面倒くさいイベントがなくなるのはありがたいな」

いやでも、待てよ。生徒総会がなくなると……

「給料ももらえなくなるじゃないか! んー、やっぱり金は欲しいしなぁ……」

それと同時に、彼の笑顔が浮かんだ。

「……マサ君…………」

バ、バカッ!! 何で夜宵君を想像しているんだ!! しかも勝手にあだ名までつけて……!!

ガラガラッ…………

控えめなドアの音とともに、ふわふわとした人物が生徒会室にひょっこりと顔を覗かせた。

「エミリオさん! 今いい!?」
「……げっほげほげほん!!」

突然の夜宵君の訪問に私は咳き込んでしまった。いつかの放課後に来るとは聞いていたが、まさか昼休みに来るとは。たぶん、聞かれてないよな……? あともう少し来るのが早かったら、危うく口元も見られるところだった。私はマスクをまた上にずらし、夜宵君を見た。

「夜宵君! どうしたんだ?」
「ごめんね。本当は今日の放課後に行く予定だったんだけど、放課後に用事ができちゃったから、昼休みに来たんだー」

夜宵君はえへへと笑って言った。可愛いったらありゃしない。私は彼を部屋に招き、また椅子に座らせた。というか、かなり偉そうに座っているけど、私って部外者なんだよな。

「そうか。じゃあ今から、昨日言ってた作戦を立てるのか?」
「あ! それもあるんだけど、これを渡したくて!」

彼はそう言って、片手に持っていた本を私に渡した。本の題名は、『厨二病探偵コージ君』。昨日のあれか。表紙には、いかにも厨二病って感じの右目の赤いイケメンが、腕を組んで立っている王様っぽいキャラ(これまたイケメン)に跪いている絵が描かれている。ほう、私の秘められた力が湧き出てくるような……って、これ本当に探偵の話なのか?

「エミリオさんに、ぜひ読んで欲しくて! 厨二病系の話好き?」
「あ、ありがとう。よくわかっているな。大好物だ。探偵ものはあまり読んだことがないけど……」
「大丈夫! 読みやすいよ!」
「……ありがとう。早速読んでみるよ」

まあ、こんな格好してたら厨二病なのはわかるか。私は本の表紙をそっと撫でた。

「ところで、エミリオさんって2年何組?」

彼のこの質問に、私はギクリとした。実はここの生徒じゃありません、とは言えないし、かと言って適当に言うのもなぁ……。彼の中では、私は2年生ということになっているようだ。タメ語で話していいって言ったから、同級生だと判断したのかな。

「フフッ、さあな、何組だろうか? 私は闇の使者。生徒会に関わる時以外は、仮の姿・名前で過ごしているんだ。もしかすると、君の隣の席にいるヤツかもしれないぞ?」

私はクククっと笑って誤魔化した。これが今の私の精一杯だ。すると夜宵君は、顔を少し傾けてんーと唸った。

「僕の隣……右隣は廊下だし、左隣は身長180センチはある筋肉質な男子だからなぁ……何組だろう……ま、いっか!」

彼は顔を真っ直ぐに戻し、にぱっとした。彼のことだから、推理していつかバレそうな気もするが、その時はその時だ。それにしても、180センチ以上あるマッチョってすごいな。私は話をそらして、夜宵君に尋ねた。

「……夜宵君は、昼休みは何をしているんだ?」
「読書! 本の続きが気になって、いつも読んじゃうんだー」

やはりそうか。あの時も、休み時間はずっと本を読んでいたな。

私が次に話す言葉を考えていると、掃除の時間を告げるチャイムが鳴り、私の思考は遮断された。もう終わりか。そもそも、昼休みの時間が短いんじゃないかとさえ思った。

「あっ、掃除だ! それじゃあまたね、エミリオさん!」

彼は立ち上がって、すらりとした足で生徒会室を後にした。ああ、行ってしまった。今日はあまり話せなかったな。でも、またねってことは、また来てくれるかな、作戦でも練りに。

胸に寂しさを残し、私はもらった本に視線を落とした。

「生徒総会のこと、伯父さんに聞いてみるか……」

生徒会室は本来、生徒会の役員が掃除をすることになっていた。だがしばらくは、伯父さんに指示された時だけ掃除をするのだ。

私は静寂な空気に包まれながら、美麗なイラストの表紙をめくり、1行目から読み始めた。

【彼はゆっくりと、足音を立てながら階段を降りる。僕はその下で彼を見つめた。彼が最後の1段に足をつけると同時に、僕は跪き、誓いの言葉を呟いた。】

「うおおお、かっこいい……! 何という美しさ……!!」

開始1ページで心を奪われた。私は次々にページをめくった。そして、5ページ目。

【『ああっ、いけません、こんなところでっ……』『大丈夫、今は2人きりだ。それに、お前の反応が可愛くてな……』】

「おい! 思いきりBLじゃないかよ! どうやってミステリーに繋げるんだこれ!」

直球で表現されている訳ではないが、遠回しの表現の方がかえっていやらしい気がする。私はBLは余裕でいけるが、これを夜宵君が読んでると思うと……。どう思いながら読んでいるんだ、彼は。しかも全五巻。彼に返却する時、何と言えばいいんだろう。私はさらに、手を動かした。

< 11/ 107 >