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生徒会長時給850円!

プロローグ〜生徒会長時給850円!〜

昔から、英語の授業で先生に「How are you?」と聞かれて、「I'm fine」としか答えられない自分が嫌だった。fine以外に何かないのか? あるだろう? hungryとかさ。いや、ごきげんいかがと言われて、お腹が空いたはちょっとおかしいか。

中学の担任が、「友達は英語でfriend。どうしてfrendって書かないと思う?」と私に問いかけた。私が首を傾げると、先生は「友達には愛があるからだよ! “i”が!」と自信満々に語った。あーなるほどと思う一方、いや違うだろと反論したい気持ちになった。友達にはiがある? それは友情という? じゃあfamilyのiも愛という意味なのか? そもそも、一番愛がありそうなloverには何故iがない! いっそのことlovierにした方がいいんじゃないか?

そんなくだらないことを考える毎日。そう、私はあれだ、暇なのだ。

寝そべって天井を見つめながら、小さなしみを点つなぎのように指でなぞっていた。



ああ、すまない、申し遅れた。私の名前は江原美世(えはら・みよ)。いたって普通の名前だ。読み間違えられたことはほとんどないから、それはありがたいのだが、こう、もっと厨二っぽいかっけー名前もいいよなーとよく思う(全国のエハラさんとミヨさんごめんなさい)。

私が小さなため息をつくと、ノック音が部屋に響いた。

「入っていいよー」

ドアが開き、私は起き上がった。

「美世、来客だよ!」

お母さんは満面の笑みでそう言った。

「来客?」
「そう。美世の大好きな、ね。部屋に呼んでもいい?」
「あ、ああ……」

私の大好きな客って誰だろう。まあいい、暇してるし。

「どうぞ、入って下さい!」

お母さんが廊下に向けて声を張った。すると、足音がこちらに近づいてきた。そして、黒髪でスーツを着た男性が私の部屋の前に現れた。

「美世ちゃん、久しぶりだね。元気にしてた?」

やって来たのは、私の伯父、江原孝則(たかのり)だ。

「伯父さん! 元気だぞ!」

久々の再会に私は思わず笑みを浮かべた。最近は知り合いにほとんど会っていなかった。……日本語でも元気って答えてしまったな、はは。

「そうかそうか、それはよかった」
「それじゃあお兄さん、後はよろしくお願いしますね!」

伯父さんはこくりと頷き、お母さんは部屋から去っていった。何の話だ……? 伯父さんはゆっくりと部屋に入り、私の前に座った。

「よいしょっと。美世ちゃん、早速で悪いんだけど、僕の話を聞いてもらってもいいかな?」
「うん。どういう話なんだ?」

何だろう? おもちゃでも買ってくれるのか? それは嬉しい。しかし、伯父さんの口から出た言葉は、耳を疑うようなものだった。

「単刀直入に言うね。僕の高校の生徒会長をしてくれないかな?」
「はぁーん!?」

私はマヌケな声を出してしまった。生徒会長だと!? 伯父さんは何を言うんだ!!

「何言ってるんだ!? 私が生徒会長!?」
「ああ、ごめんごめん。説明不足だね。僕の高校に生徒会があるんだけど、そこの会長をやって欲しいんだ」
「いや不足しすぎだろ!!」

立ち上がって大声を出す私をよそに、伯父さんはまた話し始めた。

「まあまあ美世ちゃん落ち着いて。あーあ、美世ちゃんも昔は『伯父さーん!』って駆け寄ってきてとっても可愛かったんだよ? いや、今でも可愛いんだけどね。喋り方はずっと男の子口調だけど」
「話をそらすんじゃない! 昔の話は関係なくて! 生徒会長ってどういうことだよ!?」

私の伯父さんはとある高校の校長をしている。仕事中は真面目らしい。

伯父さんはコホンと咳をして、私を見つめた。

「実はね、この前生徒会に立候補したい人を募集したんだけど、誰も入らなかったんだ。先生達にも説得をお願いしたものの、生徒はみんな頑なに嫌がったみたいで……」
「そりゃすごいな。じゃあ、旧生徒会役員にもう一度やらせたらいいんじゃないか?」
「それが、彼らももうやりたくないって言ったんだ……原因もよくわからなくて……」

とんだ学校だ。前の役員含め、誰一人生徒会に入らないとは……。そんなに入りたくない理由があるのか。

「あ、それでね、とりあえず今は先生達でどうにか生徒会の仕事をしてるんだけど、やっぱり仕事量が多くて……そこで! 代わりに美世ちゃんに頼もうと思って!」

この人は何故ニコニコ顔で私を見るんだ。だが、伯父さんはどうやら真面目に言っているらしい。

「……どうして私に? 部外者だぞ?」
「美世ちゃん、高校も辞めちゃったし、今暇してるでしょ?」
「うっ、ま、まあ確かに暇してるけど……」

そうなのだ。私は少し前に高校を中退した。理由は、まあ、その…………簡単に言えば、面倒だったからだ。とは言え、生徒会長代理……色々とツッコミどころ満載だし、何よりも面倒そうじゃないか!

「もちろん、ただでやれとは言わないよ。ちゃんとお金も出す」
「金!?」

そのワードに私は反応した。金が出るってことは……

「つまり、アルバイトってことか?」
「そう。時給は850円にしようと思うんだけど、どうかな?」
「時給850円……バイトやったことないからあんまり時給とかわかんないけど、金は欲しい」

私は腕を組んでしばし考えた。生徒会長のバイト……少し整理しよう。まず、私はその学校の生徒じゃないぞ。

「そこの生徒以外が会長をやってもいいのか?」
「バレなきゃ大丈夫だよ。人数も多いから、全員の顔と名前が一致している人なんて少ないはず!」
「適当だな! 大体、顔出しに実名って、学外のやつだってバレるかもしれないぞ!」
「んー、それもそうかー……」

しゅんとする伯父さん。そこまでやって欲しかったのか。でもなぁ、顔を晒して「生徒会長になりました、江原美世です」なんて言ったら、いくら人数の多い学校でも、誰か一人くらいは「あいつ誰だ? まさか部外者?」ってなりそうだ。たとえバレなかったとしても、私自身何だか落ち着かないし……。

バレないようにする……あっ!

「なあ伯父さん。バレなきゃいいんだよな? だったらさ! 変装したらいいんじゃないか?」
「へ、変装!?」
「そうだ。それなら、『学内のやつが変装してるんじゃね?』ってことになるかなって」
「あ、あー、んーそうだね……」

伯父さんは眉をひそめていたが、私は気にせずタンスをごそごそとした。我ながらいいアイデアだ。私はあるものを取り出し、身につけた後、伯父さんの方を振り返った。

「どうだ! 私は闇の世界からやって来た……フフフ……これでバレないだろ?」
「……そ、そう、だね……」

私は黒いマントと黒いマスクを装着した。何だろう、私は面倒くさがり屋だが、こういう格好ができるなら多少は許せる……気がする。

「み、美世ちゃん、厨二病って言うんだっけ……相変わらずだね」

私は世間一般では厨二病と呼ばれる病にかかっている。それは認める。やる気がない割には、厨二系のことになるとスイッチが入るのだ。

「今なら空も飛べそうな気がする……」
「は、はぁ……」

笑っているのか呆れているのかよくわからない伯父さん。ノリノリ気分なのもつかの間、私はもう一つの疑問が浮かんだ。

「あとさ、伯父さんの高校ってここからかなり遠くないか? 流石に通うのはキツい……」
「それなら心配不要! 僕の家にしばらく泊まればいい!」
「えぇ!? と、泊まる!?」

伯父さんは人差し指を立てて笑った。伯父さんの家は昔何回か行ったし、広くていいんだけど……急すぎないか?

「ま、待ってくれ! まだやるって決めた訳じゃないし、それに両親も何て言うか……」
「大丈夫だよ、美世!」
「ええ、お母さん達のことは心配しないで! 安心して行ってらっしゃい!」
「お父さん! お母さん! い、いつの間にいたんだよ!? てか軽っ!!」

いきなりドアを開けて微笑む両親に、私はどこからツッコミを入れたらいいのかわからなくなった。

「お父さんもお母さんもああ言ってるし、後は美世ちゃん次第だよ。あ、アルバイトって言っても毎日毎日ある訳じゃないし、日にもよるけど普段はそんなに仕事がないから、あまり稼ぎにはならないかもしれないけど……」
「うーん……」

そんなに稼げないのか。生徒会長の仕事……よく生徒会がメインのアニメや漫画はあるけど、現実の生徒会って何するんだろ? やっぱりめんどいよな……いやしかし……



『逃げたっていいよ。ただし、その分他のことで頑張りなさい』



……うん、そうだな。

「……ま、最近あんまり外に出てなかったし、バイトってのも経験してみようかな」

私がそう言うと、他の三人はくすりと笑った。

「ありがとう、美世ちゃん。それじゃあ、これから卒業式の日までの契約ね」
「契約!? それは儀式しなきゃな!!」
「…………」

こうして、私のバイト?生活は幕を開けた。

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