「貴方が言いたいのは、言うべきなのは、死にたいでは無いわ。『自由になりたい』……そうじゃないの?」


さっき、彼は『やっと、自由になれる』と言ったのだ。


それは自らの死を指す言葉だったのだろうが、死ぬことで全てから開放されるなんて思わないで欲しい。


「本当に自由になりたいのなら、やるべき事をやってからにしなさい。見返りなんて、何も要らないから」


「……」


死んだって、何かは残る。


彼が言っているのはただの"逃げ”であり、"自由”ではない。


本当に自由になりたいのなら、しがらみは全て捨ててもらわないと。


「ほら、立って。私の家に行きましょう」


「……?」


「ここに手当の道具が十分にないのよ。だから、来なさい」


手を引くと、彼は顔を歪ませる。


「……離してくれ。流石に痛い」


今度は、反抗しなかった。


けれど、その悶絶するような顔は……良い意味を示してはいなかった。


「ちょっ……まさか、両腕とも怪我してるの?足は?―って、足も左足が血だらけじゃない!背中まで……あなた、この傷でよくあんなに反抗できたわね!!」


驚きを通り越して、呆れた。


何て、生命力なんだ。この男は。


「……お前は、コロコロと表情を変えるな」


力抜けた顔をしていたのか、表情を和らげた青年。


「貴方もよ。少しは警戒心、解いてくれた?」


まるで、手負いの獣だ。


牙を剥くことで、自分の身を守ろうとする。