莉娃様が……尹賢太妃が指差した、一人の女官。


翠蓮が振り返った先には、変わらぬ表情で立っている明景がいた。


明景は苦笑いをこぼして、


「お人が悪いです」


と、莉娃を見る。


「いつ、気づいたんですか?」


「いつ……と言われても。私も聞いた話だ。―第二皇子の母を自らの母代わりにしようとした先帝は、自らの思うままにならぬ彼女を殺した。そして、自らの妃のひとりの栄妃に彼女を―……葉妃の面影を重ねた」


「……」


「先帝は栄妃に祥星様の第五皇子を盗ませ、自らの子と仕立てあげた。そして、彼が次に見つけたのは、佳音という女だった。先帝は彼女を深く愛したが、それは変わらず一方通行で、佳音には拒絶された。だから、彼女から娘を取り上げるよう、私が殺したあの女を―桧妃(ケヒ)を唆した。桧妃の姉もまた、第二皇子を盗み、そして、愛晶の宮の内院に放置していたから。……だろう?」


確認するような言葉に、明景は。


「詳しいですね」


と、追従笑いにも取れる笑顔。


「翠蓮に出会って、変わったのか?」


「……」「え?」


明景が何も言わないから、しんと静まった場の中で、翠蓮の声だけが阿呆みたいに響いた。


「……貴女の娘は、真っ直ぐすぎまして」


苦笑気味にそう呟いた明景。


「…………私の娘だからじゃない。白蓮が育てた、愛逢月の娘だからだよ」


それにどこか、泣きそうな声で返すこの二人の関係性とは。