暗闇の中で、懐かしい人が泣いていた。


黎祥の口は勝手に動き、目の前の愛しい人の名前を口にする―……。


「…………蓮………翠蓮………!」


眠りから覚めて、黎祥は瞼を上げた。


そして、最初に動いた手で掴んだのは、何かの布。


「―あ、黎祥、気がついた?」


視界に入った、穏やかな笑顔を浮かべる豹揮兄上。


「兄、上……っ」


「うん、久しぶり。再会早々、大変だよ。矢尻に塗られていた毒が全身に一気に回ってて、ちょっと治療に困難を極めたけど……ちゃんと、毒消しは行われたかな」


「っ」


「いや、毒消しを行ったからって、完全ではないのだから。無理に起き上がろうとするなよ。寝てなさい、黎祥」


「翠、蓮っ……は……」


「翠蓮なら、事件の後始末に」


「?」


事件?事件とは、何の話だ。


「お前が眠りについてから、既に三日。その間に、蘇貴太妃が自らの宮に火を放ち、命を絶った」


「!?っ、どういう……」


「ああ、もう、動くなって。―事件全貌はよくわからないんだが、とりあえず、それからというもの、みんな、この春宵宮の中で生活している。父上の命令であるのも事実だが、父上に何か策があるらしい。流雲兄上もここにいるが、流雲兄上によると、元から、蘇貴太妃は儀式の日に命を絶つ予定で……けれど、火を放つ予定はなかったと。唯一、若琳が火を放ったらしい人物を見ていたそうだが……」


若琳は、色んな方面で活躍していた。


はてさて、あの家はこの国にとってどんな役割をこなす家だったか。