―手放したくない。


幸せになって欲しい。


自分じゃ、幸せには出来ないだろうから。


それなのに……どうしてだろう。


こんなにも、彼女が他の人のものになることを考えると……腹ただしく、悔しい気持ちになるのは。


そんな思いを、黎祥は知らなかった。


誰も、教えてはくれなかった感情だった。


こんなにも幸せにしたいと望んだとしても、本来の黎祥が生きるべき場所は人の欲と悪意に塗れた窮屈で薄暗い場所。


檻なんかに閉じこめて、彼女を苦しめることはしたくない。


この忙しなく、窮屈な人生は君に似合わない。


食べるもの、着るもの、とりあえず、触れるもの全てには気をつけて……周囲にいる人間は決して、信じてはいけない。


そんな世界に、欲望の渦巻く薄汚い世界に、翠蓮を巻き込んで……そして、あの光を曇らせたくなかった。


黎祥の、一人立つ希望。


「………………………の妃に、今回の事件との関与が疑われます」


宦官からの報告を受けて、黎祥は手元の資料を見た。


雪麗をはじめとして、後宮の異変に関与のあるものはこれで、四名。


「これからも、監視に当たれ」


「はっ」


椅子に腰を深くかけて、息をつく。


翠蓮以外、愛していない。


だから、後宮の誰が罪を犯そうとどうでもいい。


でも、疲れるな。


これから先、自分は何を希望にすればいいだろう。