「ふーん……そういうことかぁ〜」


暁和殿一室。


宦官の格好に扮した翠蓮は、目の前の流雲殿下を見上げ、栄雪麗様の件について話した。


「これで、ひとつの復讐は終わったってところ?」


「誤魔化さないでください。……栄家当主の事件に関わっていたでしょう、兄上」


のほほーんとした、平和そうな笑顔を浮かべていた流雲殿下は、翠蓮の隣にいる黎祥を見て、笑みを深めた。


その意味深な行動は、ますます、彼をわからなくさせる。


「……ねぇ、黎祥、翠蓮」


「はい」「何ですか」


「あのさ、危険を犯してでも、犯人を捕まえたい?」


机に書類を放り投げて、流雲殿下は問いてくる。


「どういう、意味ですか」


「……ま、翠蓮なら、捕まえるっていうんだろうけどさ」


こちらの疑問に答えないまま、そんな結論に至った流雲殿下は掴めない表情を浮かべ続けて。


「ね、ちょっとさ、翠蓮、このあと時間ある?」


「え?」


「黎祥も協力してよ」


「兄上、一体何を―……」


「女狐の、お披露目」


楽しそうな表情からは、一切感情を読み取れない。


不思議に思いつつも、


「時間があったら、何を……」


そう、尋ねると。


「話だよ。決して笑えない、昔話」


「……」


「さ、思い立ったら、すぐ行動!」


―流雲殿下の勝手なる意向により、この日から数日間、政務後に陛下は李妃の宮に通い詰めになるという、寵愛ぶりを窺わせた。


懐妊も近いだろうという、見当違いの噂は、徐々に、翠蓮を危険に晒し始めていた。