―初更、明恩宮。


「灯蘭様、先程、雄星様がお目覚めになられたそうですよ」


「……そう、良かった」


弟の無事を知り、灯蘭はホッと息をつくと同時に、物憂げな顔をした。


灯蘭が考えているのは、今までの自分の選択のこと。


「―ねぇ、祐鳳」


そして、お茶の準備をしている祐鳳に声をかける。


「私、間違ったことをしたかしら?」


「……」


「翠蓮みたいに、強くなりたかっただけなの。だから、ちゃんと強く、あろうとしたのに……駄目ね。これじゃあ、立派なお嫁さんにもなれない」


灯蘭にとって、あの日見たものは、恐怖そのものだった。


大丈夫、そう言われたのに、雄星は倒れた。


きっと、多くの人が一度に事件を起こしているから……あの人は、雄星には何もしていないんだろう。


でも、今は誰にも会いたくない。


祐鳳以外と、顔を合わせたくない。


誰が、"怖い人”なのか、灯蘭には見分けすらつかない。


祐鳳はそばに来ると、灯蘭の足元に膝をついた。


そして、灯蘭の手を優しく握ると。


「貴女の優しさは、俺が一番、よく知っています」


「……」


「それに、貴女は弱くなんてない」


そう言いながら、灯蘭の手の甲を優しく撫でた。