理知的で、穏やかな雰囲気は秋遠を思わせる、淑紫京―……先々帝、淑祥星の弟であり、あの王位継承争いで生き残った数少ない業波帝の皇子である。


現在は玄和国を治め、玄和王と呼ばれており、生前の同母弟に並んで、彼は信頼なる先々帝の兄弟だったそうだ。


「―お久しぶりです。義姉上、陛下」


夏宵宮一角。


皇太后の腹心である、信頼厚き、晶芳をはじめとして、嵐雪を付けた皇帝陛下―黎祥は、彼と向き合って。


「御呼び出しして、申し訳ありません。叔父上」


「いえいえ。陛下が頭を下げるようなことは、何も。たまたま、近くにいましたからね」


優しい風貌で、皇族象徴の黒髪をゆったりと結い、肩に流す叔父上は、見た目と裏腹に侮れない人物。


「それより、いきなりどうしたのですか?真実を、知りたくなったと?」


「……」


「噂は、聞き及んでいます。初代の遺体が行方不明だそうですね?」


確認するように問われ、相変わらず、この人には何も誤魔化せやしないのだと、黎祥は素直に頷いた。


「やはり、そうですか……」


けれど、そんな黎祥の返答に、紫京叔父上は顔を曇らせて。


「やはり?」


「先日、卜占でそのような結果が出たと言いますか……不吉ですが、後宮が燃える姿を水晶の奥に見たのです」


紫京叔父上は、卜占を得意としている。


あくまで、それは予知の話なので、彼のことを責めるつもりはないが……。


「後宮が、燃える……」


「はい。街を歩いていた時、後宮から逃げ出してきたらしい女官たちとぶつかりましてね。彼女達が話していたのです。"後宮は既に龍の手中の中にあるのだ。その証拠に、人が死んでいるのだ”と」


「……」


女官たちの勝手な噂話はともかく、紫京叔父上が占ったということは、後宮が燃えるのは、近い未来に起こることなのだろう。