抱きしめる彼のぬくもりを思い出すたび、感覚が体に絡みつく。

恋人のような甘い言葉なんてないけれど、その腕ひとつで幸せになれてしまうんだ。



もしかしたら、その胸にもこの胸と似たような感情があるんじゃないか、なんて期待を抱いて。






ある日の朝、私は職場の更衣室で鼻歌混じりに仕事着に着替えていた。

愛菜さんが来たあの日から、浮かれっぱなしの私はご機嫌だ。



『よっぽどあなたのことが大切なのね』



元カノから見てそう見えるなんて、と思うともしかしたらなんて希望が湧いてきてしまう。

浮かれちゃいけないとわかってはいるけれど、そうだったら嬉しいな。



ひとり「ふふ」とにやけていると、後ろからポコッと頭を軽く叩かれた。



「わっ、瑠璃!?」



振り向くと、そこにいたのは同じく出勤してきたところらしい瑠璃。

筒状に丸めた書類を手にした瑠璃は、呆れたような顔でこちらを見ている。



「なにひとりでだらしない顔してるのよ」

「えっ、そんな顔してた?」

「してる。すっごいだらしない顔してる」



言われて顔をおさえる私に、瑠璃はなにかを察したように頷き、自分のロッカーを開けて上着を脱ぐ。