「お、お嬢様、本当によろしいのですか?」

「もちろんよ」


心配するメイを余所に、オリヴィアは自信たっぷりな表情を浮かべている。

メイがこんな表情を浮かべているというのも、オリヴィアが領地へと戻るためにディアナとの会談の前に城を抜け出して城下町の市場に来ていたのだ。

城を守る衛兵の目をかいくぐるのは少々苦労したが、昔から屋敷を抜け出してばかりいたオリヴィアには造作もないことだった。

オリヴィアに付き添っているメイはオリヴィアと共に平民と同じような恰好をして深々と帽子を被っている。

主人である伯爵令嬢のオリヴィアが平民と同じ質素な服装をしているなどとダルトン伯爵に知られたら、オリヴィアがどんな仕打ちをうけるだろうかとメイは頭が痛くなった。


「これからディアナ殿下と王太子殿下にお会いする予定だったのではないですか?」

「ええ。けれどディアナ殿下と会談なんてしてしまったなら、私はもう二度とアンスリナへ帰ることはできなくなるわ」


もしディアナと会談したならば、確実にアーノルドはオリヴィアを婚約者だと紹介するだろう。

王太子の姉であり西の国の王妃でもあるディアナにそのように紹介されてしまったなら、オリヴィアはアーノルドと結婚せざるを得なくなる。

そうなればオリヴィアは一生王城の中で王太子妃として、ゆくゆくは王妃として生きなければならない。

オリヴィアの逃げ道は完全に閉ざされてしまうのだ。

そうなる前に何としてでも逃げ出さなければならない。


「大丈夫よ、メイ。そんなに心配しなくても、アンスリナへ向かう馬車に乗ってしまえばよいのだから」