重なるときは重なる。
営業で大きなプロジェクトが動いているらしい。
どっと1週間ばかりの出張の決裁書数人分が千野先輩のところに集まった。

特に忙しい時期ではなかった。
悲しそうに書類をぺらぺらめくる先輩の手伝いを申し出た。
みゆきと二人2時間くらいの残業をして処理をした。

一人でやったら三倍くらいかかったかもしれない。
今日の仕事を明日に回すと、最終的に大きな塊になる。
出来るだけその日に済ませたい。

今までもそうやって助け合った。

みゆき、先輩、私の順によろこびの声を上げて終了を知らせた。

とりあえず終ったものを明日先輩に再確認してもらうとして、保存する。

飲み物を片付けて、トイレも済ませて帰りの準備をする。
ちらりと壁の時計を見てしまうのは習慣のようなものだった。


「只野さん、ごめんね、遅くまで頼んでしまって。」

「いえ、大丈夫です。特に予定もないですし、することもないです。」

「中村さんもごめんね。ありがとう。」

「私も特に予定ないですから。大丈夫です。」


なんとなく三人で並んでエレベーターを待つ。


「遅くなったし、急がなければ夕飯奢るけど。早く帰りたいかな?」

みゆきと目を合わせる。
明日は金曜日。
明日を乗り切れば終る。来週はハードになりそうだけど。

「じゃあ、ご馳走になります。」

みゆきが遠慮なく手を上げる。
千野先輩が私を見る。

「じゃあ、私もご馳走になります。」

会社を出て、店を決めた。
最後の一つのテーブル。
4人掛けのテーブルについて残りの一つの椅子に荷物を置いて。

メニューを見るととたんにおなかが空く。
次々と一人二品づつ食べたいものを頼んでお酒もお願いする。
テーブルの真ん中において取り皿に適当に取りながら美味しく頂く。


話はみゆきの恋愛話になった。
珍しく先輩に相談モードだ。

細切れに聞いたことはあったけど、並べえられると呆れるくらいの駄目男特集。
千野先輩の目も驚いてる。


みゆきはぱっと見は大人しそうだし、決してそんな駄目男を引き寄せてる風には見えない。
付き合ってみても明るいし、慣れるとよくしゃべると分かってる。
同期としては本当に付き合いやすくていい。

駄目男なんてすっぱりあきらめそうなのに。

それとも私には見せない甘やかしの癖でもあるんだろうか?
そして駄目男にしてしまう・・・とか。


最近お付き合いしていた彼にも浮気をされたと言う新しいニュースが披露されて、私が驚いた。

今回はすっぱり別れたらしい。
今までの経験がやっと役に立ったと言いながら笑うみゆき。


先輩はもはや相談相手にもなっていない。

「ちょっと分からないけど・・・・。」

早い段階で先輩の理解を超えたらしい。
その後の話では、もうアドバイスなんて出来るはずもなく。


大好きな人と言ってた。
ずっと片思いしていたのを知っている。
きっと悲しかっただろう。
幸せ報告からは短い期間だった。
逆にそれが良かったのだろうか?
あっけらかんと別れたと言うみゆきを見る。


私も何もアドバイスできそうにない。
本当に普通の恋愛しかしたことがない。本当に普通。


お酒も進み、ちょっとぼんやりするみゆき。
ちょっとだけ千野先輩の恋愛話を聞いたり、逆に聞かれてちょっとだけ披露したり。


「千野先輩、今彼女はいないんですか?」

酔った勢いなのか、堂々と聞いてるみゆき。
私も考えてみたけど、千野先輩と彼女・・・・あんまり想像できない。
静かに一人でいる姿なら想像できるんだけど。

「そうだね。寂しいかな。」

千野先輩がやわらかく笑いながら言う。

寂しいのなら負けてません。
大丈夫です、先輩頑張りましょう。

みゆきに答えた先輩が私を見て、視線が合ったので目で励ました。

「なんとなく安心しました。千野先輩が一人でいる姿は想像できます。」

つい言ってしまった。

「・・・・ちょっと・・失礼すぎるよ、譲。私は譲の一人ぼっちも簡単に想像できるけど。」

「うっ、はい、失礼しました。」

先輩に謝る。

「いいよ、別に。」

ほら、優しいから許される、もしくはボッチ同志だから?

「先輩、頑張りましょう。みゆきも頑張る?」

「当たり前でしょう。」

そう、三人で言い合って、中途半端なグラスで乾杯をした。