僕は引っ越した。まだ、雪の残る3月の夜の北海道に。
前の高校でいじめを受けた訳でもなく、人間関係に問題があった訳でもなく有意義な生活をしていた。しかし、どうしても僕の夢である小説家になるため、この春北海道の高校に転校することになった。もちろん親への説得には長き時間を有した。そこまでしてでも僕が転校したかった高校こそ、唯一僕の求める条件を持っている高校、私立桜ノ上(さくらのうえ)高校である。ここではあらゆる作品を作る製作者の養成を主にしている。それだけだったら他の高校でも良いのだか、ここでは、製作者養成をするために、3年分の授業をたったの1年半で学び、残りの1年半で製作者養成に尽力する。また、大学との連携もしっかりとしており、1年半の製作の結果次第で大学も簡単に入学できるのだ。しかし、ここで問題なのは、勉学だ。僕は単純計算で大きな1年分の勉強量は他の人から遅れている。そのため、半年で2年分もの勉強をしなくてはならない。まあ、そこは補習等で補うことになるだろう。このことは、親や友人に何度も告げられている。それでも僕は必死になって頑張ることを決意した。そして、今日北海道に着いた。

「そうだ、隣の人に挨拶でもしておかないとな。」

僕はアパートで暮らすことになったので、もちろん近隣の住民とのコミュニケーションはとらないといけないと思っている。

「まずは、この桜井さんから。」

僕の家の右隣の家の人だ。

ピンポーン!
「すいませんー。隣に引っ越してきた秋原です。挨拶をしに来ました。」

しかし、応答はなかった。居ないと思い次は僕の家の左隣の家の人の夏木さんの家へ行った。

「すいませんー。隣に引っ越してきた秋原です。挨拶をしに来ました。」

しかし、ここも応答はなかった。明日は学校へ早くから行かなくてはならないため明日改めて行くことにした。
両隣の家の人が居たのは僕は、知るはずもなかった。

次の日、僕は学校で色々説明を受けていた。
生活のこと、補習のこと、僕のアパートのこと。
ここで注目してもらいたいのは、アパートのことである。僕のアパートは、この桜ノ上高校の生徒が多く生活をしている。生徒同士のコミュニケーションを養うため、男女での仕切りはないようだ。もしかしたら両隣の人が女性の可能性も。
そんな期待を持ちつつもまだ肌寒い道を歩いていた。それにしてもなんで3月なのに北海道はこんなにも寒いのだろうか。3月と言ってもすぐ4月になるのに。
寒さしのぎのために僕はファミレスを寄って帰ることにした。

「いらっしゃいませー。」

そこに現れたのは、陽気な金髪美少女だった。僕はこんな美少女がこの世にいることに驚いた。しかし、そんな僕なんかお構い無しに彼女は席に案内した。

「メニューが決まりましたらお呼びください。」

そこに置いていたメニューなんか目も置かず、僕は彼女を見てしまっていた。変態ストーカーってこうして出てくるんだ。
結局大して食べることもせず、僕はあの彼女のことを思い浮かべながら家に帰った。
しかし、家に着いてすぐ、見知らぬ靴が玄関にあった。恐る恐るリビングに向かうと見知らぬ同い年頃の女の子がソファーで寝ていた。見た目は大人しそうな黒髪ロングだった。

「すいません。僕の家で何をしてるんですか?」

寝ぼけている彼女は周りを見渡し

「ここは私の家よぉ。」

と言ってまた寝てしまった。どう見ても引っ越してすぐの状態だった。

「目を覚ましてもう一度確認してください。」
「んぅー??」
「どうですか?違うでしょ??」
「あれぇー?ここはどこよぉー?」

寝ぼけているような口調ではあるがここが彼女の家ではないということはわかったようだ。

「ここは僕の家です。あなたの家はど…」
「だから見覚えのない景色がある訳ねぇ。じゃー、1時間後に起こしてねぇー。」

また、寝てしまった。よくも知らない人の家で寝ることができるもんだ。

「ダメです。勝手に人の家に居座らないでください。あなたの家はどこなんですか?」
「起こさないでよぉー。私の家は…」

彼女の家は、僕の家の隣の家の桜井さんの家だった。そう、僕の期待は、的中したのだ。そうすると、ドアが開く音がした。

「ただいまーと言っても誰もいないけどー。」

悲しいことを呑気に言う声。
玄関から現れたのは、さっきのファミレスの店員だった。

「あー、さっきのー。」
「あれ?君、私の家で何してるのよー。」
「ここは、僕の家ですよー。」
「そんなことはない、警察呼びますよ。」
「こっちのセリフですよ。」

また、僕の家に来訪者が来た。しかも、自分の家だと思い込んでいる来訪者が。

「私の家はこのアパートの…」

そう皆さんの予想通り彼女は、夏木さんだった。

「あの、夏木さんでよろしいでしょうか?ここはあなたの隣の家です。ここで寝ている人と同じように。」
「なんで私のこと知ってるのよ、もしかして君ストーカー??」
「昨日あなたの家に行って引っ越しの挨拶をしようと思いまして、伺ったんですが居なかったようで。」
「あ、昨日のは、あなただったの?てっきりいつものストーカーかと思っちゃったよー。」

これが、両隣の家の人との初めての交流であり、これからの物語を作っていく彼女らとの出会いであった。