再び馬でザックに切り株亭まで送ってもらうと、宿屋にはまだオードリーがいた。
扉が開いたとたんに、レイモンドが驚いたように立ち上がり、「なんだロザリーか」と息をつく。
宿の客はみんな部屋に入ってしまったのか、一階にいるのはふたりだけのようだ。

「邪魔だったか? 悪かったな」

「ザック様、何言ってんですか。おかえり、ロザリー。ザック様、ありがとうございました」

冷やかしの視線を投げるザックに、レイモンドはまるで保護者のように戸口まで苦替えに出て、ロザリーを引き取った。

「ザック様に変なことされてないよな?」

「へ、変なこととは?」

「おい! 失礼だな、人を間男のように言うな」

突っ込みを入れるザックは、不機嫌顔だ。

「一応確認ですよ。ロザリーだって一応年頃の女の子ですからね。預かっている以上俺にだって責任があります。まあでも、この反応なら大丈夫そうですけどね」

「全く……」

うんうんと納得するレイモンドに、奥からくすくす笑いが聞こえてくる。

「すっかり保護者なのね、レイモンド」

「オードリー」

立ち上がって歩いてきたのはオードリーだ。ふたりの間にどんな会話があったのかはわからないが、オードリーは憑き物の取れたような、穏やかな顔をしている。
最初に宿屋の前で見たときの思いつめた様子を思い出せば、彼女がこれまで気を張って生きてきたのだろうという予想はついた。