切り株亭は、重苦しい雰囲気に包まれていた。
レイモンドは厨房でしかめっ面をしたまま洗い物をしていて、オードリーは食堂のカウンターでうつむいたままひと言も発さない。
空気の気まずさは店内にも当然伝染するので、食事客たちはそそくさと会計を済ませて帰り、泊り客たちは買い物に出たり、自分たちの部屋へと戻ったりした。

ケネスはオードリーの隣の椅子に座り、カウンターに背中を向けた状態で肩ひじをのせながらあきれたようにつぶやく。

「君は一体何をやってるんだい。アイビーヒル一の秀才だと謳われたくせに、恋愛はさっぱりだったというわけだ」

「意地悪言わないでくださいませ、ケネス様」

「言いたくもなるよ。オルコット博士と君が知り合うきっかけを作ったのは我が伯爵家だ。君の人生を間違えさせたのだとしたら責任があるからね」

「結婚を決めたのは自分の意思です。……時間をかけて彼を愛していこうと思っていたんです。なのにあんなに早くに死なれてしまって」

オードリーは庶民の子だが、初等学校での成績が良く、その点でイートン伯爵にも目をかけられていた。
ファーストスクール卒業時に、イートン伯爵はオードリーをケネスの家庭教師として呼ばれていたバベッジ卿に紹介した。
卿もオードリーに才能を感じ取り、ここから一番近いグラマースクールに研究生という名目で通わせることとなった。