翌日。


(今日はちゃんと目覚ましで起きられたのに!!)
そういう日は、だいたい二度寝する。

ドタバタと準備を終わらせて玄関へ向かうと、空が色々私の持ち物を持って待っていた。
「ごめん、空!!いってきまーす!!」
「いってきまーす」

「「いってらっしゃーい」」

両親の呑気な挨拶を聞き流しながら外へ出た。




「海美ちゃん、今日の朝ごはんはブリオッシュだって」
「うわ、朝からめっちゃ重いね…ありがと」

私が空からブリオッシュを受け取って頬張っている間、空は何も言わなくてもリュックにタオルやお弁当、水筒などを詰めてくれている。

「海美ちゃん、今日体育あるでしょ?体操服と替えのキャミソールも入れてるからね」

衝撃の言葉を聴いた気がする。
バッと空の方を向いた。
「え、ちょ、えぇ!?なんで空が時間割知ってるの……っていうか、一応キャミも下着じゃないの!?」

顔に熱が集まっている感覚がする。
いくら幼なじみとはいえ、異性に下着を見られるなんて……!!

((そもそも、自分で準備をしていないことを恥じるべきである。))

「大丈夫だよ、海美ちゃんのお父さんとお母さんからは、将来の旦那さんとして扱われているからね~」
「え、なにそれ、初耳なんだけど」

あはは~と笑う空のしっぽは、忙しなくパタパタと揺れている。ちょっと恥ずかしいのかな……からかってみたくなった。

「まあ、それでも良いかもね!」

「…………え?」

「だから、空が私の旦那さんになるって話!」

空がポカンとした顔で私を見つめる。かわいい。立ち止まり、ニッと笑って空の右手を取った。



「空が旦那さんだったら、毎日安心じゃない?私、こんな年になってもダメダメだし……それに、私を大事にしてくれそうだし」








空は数秒固まった後、触れている私の左手をぎゅっと握った。

「ほんとうに、言ってる……?」

心なしか、空の瞳は潤んでいる。その奥には、どこか熱を持って。

「ウソでこんな恥ずかしいこと言わないでしょー?」(ごめん空、からかって反応が見てみたいだけです。)

その瞬間、空はグッと手を引き、私を抱きしめた。

ふわり、と洗剤のいい匂いがする。

「ほんとに、ほんとに……?うみちゃん、うみちゃん、うみちゃん……!!」

ギューっと締め付けられ、苦しくて空の背中をギブギブ、と叩いた。

「ちょ、どうしたの空。そんなに嬉しかったの?」
やっと解放してくれたので、少し体を離して空の顔を覗き込んだ。

「だって、だって……うみちゃんが、僕のお嫁さんになるなんて……!!」

空のケモ耳はピクピクと震え、尻尾はブンブン振られている。

なんか、ウソって言えなくなってしまった。

「うみちゃん、その気持ちがずっと変わらなかったら、大学卒業してすぐに結婚しようね。」
「気が早いなあ!」
「えへへ!絶対、一生大事にするからね!」



空は、繋いだ手を『恋人つなぎ』に変えて、歩き出した。



「ちょっと、なんで恋人つなぎにするの!?」
「あはは、なんかすごく嬉しくて」

抗議しながらも、全然嫌がっていない自分がいる。

ふと、思い出した。

「空、獣人って『つがい』を持つんだよね?」

空の耳がピクリ、と動いた。

「私がつがいじゃないなら、結婚しても空が苦しいだけじゃないの?」

「…………つがいにどうしても会えなかった獣人は、つがいじゃなくても好意を持った人と結婚するんだよ。」

「空は、つがいを諦めちゃうの?」

「…………」

ニコッと私に笑いかけて、空は昨日の授業が眠かったという話を始めた。

仮に私と空が結婚した後、空の前につがいが現れたら……?


なんだかモヤモヤとした気持ちが膨らんだまま、学校に到着した。