海美ちゃんが自宅へ入るまで、ずっと見守っていた。もしかしたらストーカーが、もしかしたら不審者が、と心配し出すがキリがない。

彼女を見送った後、自分の部屋に戻ってクローゼットを開けた。
自分の腰くらいの高さの洋服箪笥に洋服は全て仕舞うことができる。(もはやスペースが余っている)




棚の上の何も無い壁には、沢山のハガキサイズの写真がそれぞれ額に入って画鋲で留めてある。
ーーーーーーーーーそれは皆、彼女が写ったものだ。


赤ちゃんの空を抱っこする幼い海美ちゃん、自転車に二人乗りしているもの、砂浜で追いかけっこをしているもの、入学式や卒業式のもの、そして、明らかに隠し撮りしたようなものーーーー寝顔から水着姿、浴衣姿までーーーが所狭しと飾られていた。


洋服箪笥の上に置いてある手持ち大の箱をゆっくり開ける。そこには、四つ葉のクローバーをモチーフにした髪飾りやら、ビー玉やら、歯ブラシやら……ガラクタと言っても過言ではない物たちが詰められていた。


(うみちゃんに見られなくて良かった……)


実は彼女が来る直前まで、このクローゼットの扉を開け放ち、海美ちゃんの写真のみを集めたアルバムを部屋のローテーブルに出して癒されていたのだ。

ちなみに、箱の中のガラクタも全て彼女の使用済みのもの、または本人からもらったものだ。
海美ちゃんが部屋に入るのを足止めしたのは、もちろんこれらを隠すためだった。



おもむろにベッドへ向かい、床に座って、海美がちょうど座っていたところに顔を付けた。まだ残り香はある。

「うみちゃん……僕だけのうみちゃん……」


(傍から見たらヤバいやつって分かってるけど、やめられるわけないよね)

つがいの匂いは、獣人にとって最も甘美で、ずっと匂っていたいくらいの良い匂いなのだ。







(さあ、これからどうやって振り向かせよう……?)







まずは、男として認識してもらわないと。

自分の隣に番として並ぶ海美を想像して、一人でニヤニヤするが、さらに変人度合いが増すだけだ。

その日空は、海美の残り香に包まれて幸せな眠りについたのだった。