車は30分ほど走り、国道から少し入ってtorattoriaと掲げられたイタリアンのお店の駐車場に滑り込んだ。
 こんもりとした森の中に佇むログハウス風の造り。オープンテラスもあって、冬でなければ外でいただくのも木漏れ日が気持ち良さそうな。
 女性客やカップルで店内は賑わい、意外なお店選びだったから思わず向かいの席に座る津田さんをまじまじと見やってしまった。
  
「・・・なに?」

 オーダーを済ませ、グラスの水に口を付けた彼が憮然とした表情を返す。

「いえ・・・こういうお店も知ってるんですね」

 今まで連れていってもらったのは中華とか小料理屋さんとか、普段から行き慣れてる感じのお店ばっかりだった気がして。
 
「当然だろ」

 ・・・ものすごく上から睨まれた。

「・・・で、話はなんだ?」

 料理を待つ間も無駄にするなと言わんばかりに、素っ気なく促される。
 濃紺のスーツに藤色のネクタイをした津田さんは、仕事中のように隙のない眼をするから。緊張を憶えながら思い切って言った。

「このまえ津田さんはわたしが知りすぎてるからだって言いました。社長は・・・わたしをどうしたいんでしょうか」

 目を細めた彼の気配が変わったのを感じた。
 
「・・・・・・さぁな。日下さんはあんたをとっとと追い出したいらしいが、真下さんのことだからな。保険代わりに手元に置いとくつもりなんだろ」 
 
「・・・保険?」

「こっちの話だ。手塚には関係ない」

 ぴしゃりと言い切った津田さんはそこで黙った。だけどわたしには大事なことだった。必死に言い重ねる。

「亮ちゃんの重荷になるつもりはないんです・・・っ。でもわたしに少しでも利用価値があって、亮ちゃんの役に立てるなら何でもします。だから」

「・・・だから?」

 刺すように冷ややかな視線がわたしを射貫いた。
 膝の上できゅっと拳を握り、怯まず最後まで続ける。

「・・・・・・亮ちゃんは許してくれないと思いますけど、わたしは会社を辞めるつもりはないので。社長に、あの時の約束は忘れないで欲しいって伝えてもらいたいんです・・・!」