亮ちゃんが社長室の室長に復帰してから社内で見かける機会もなく。
 ・・・顔を合わせたら、逃げたくなるのかどうなるのか。自分で自分がよく分からないままだった。

 
 
 気が付けば忘年会のシーズンが廻ってきていた。
 去年と同様、不動産事業部の全体参加。津田さんと席が離れますようにって願いも空しく。くじ引きでお座敷の6人掛けの座卓になったら、隣りの座卓に彼がいた。しかもこっちには初野さんと同期のマーケティング課の女子社員が。

「・・・あれっ? 手塚さんて、あの手塚さん?」

 湯原と自己紹介してくれた彼女は、面白そうな表情を覗かせる。
 えぇと『あの』って、どの・・・? 返す笑顔が引き攣った。

 今回は同じ課の男性社員、浅尾さんが一緒で、他の人は初対面だったけど適度に和気あいあいとしていた。

「ねぇねぇ手塚さんて、ホントに彼女?」

 中盤も過ぎてわざわざ隣りにきた湯原さんが、『津田さん』て単語を抜いて好奇心満々に訊いてくる。

「てゆーか、どっちから告ったの? すっごく興味あるんだけど!」

「どっち・・・というか、何となく・・・というか」

 付き合ってもいないし、かと言って別れたって言うのも津田さんに失礼だし。どうにか誤魔化しきれないかな。お腹に力を込めて。

「手塚さんといる時は普通に笑ったりする? あの人、笑ったとこ見たコトないわよ?」 

「あ・・・それはわたしも無い、です」

「そーなんだ?! 手塚さんも好みが変わってるねー? なーんて言ったら悪いよねっ」

 湯原さんが悪気なく言ってるのは分かる。でも津田さんの評価が低いのは、前から違うのにって思ってたから。つい口に出してしまった。
 
「あのでも、普通の人間ですよ?」

 すると彼女が一瞬、動きを止め。思いきり吹き出した。 

「ふっ、フツウ、・・・ねっ。いやゴメン、あははっ」

 そこまで笑わなくても。って思うくらい笑った彼女は「ちょっと初野んトコ行ってくるわー」と、まだ可笑しそうにグラスを手に席を立った。

 きっと今の会話が肴にされるんだろうなぁ・・・。内心で溜め息を漏らし。あれ以上話を続けなくて済んだのにはホッとして、お手洗いに少し逃げようと、わたしも立ち上がったのだった。