都会のなかの都会、観光名所のなかの観光名所、そんなところに新富高校はあった。そしてこれは、たった1人の女子生徒の日常が、だんだんと崩れていく物語である。
 
 彼女はちょうど肩に着くぐらいのロングヘアーを、両手でスッとかきあげた。そして慣れた手つきで髪を1つにまとめると、水色のゴムできつく締め上げた。そしていつも通り少し厚めの制服をきて、自転車にまたがった。いつも通りの日常だった。
 彼女の名前は今川 愛美(いまがわ まなみ)新富高校1年美術部。美術部とはいっても、物や風景の模写はもっぱら苦手だ。しかし、女の子らしい青春漫画のようなイラストが描けるわけでもない。彼女が描くのは、腹筋ゴリゴリの少年漫画のような絵だった。いや、そういう絵しか描けなかったのである。そのため、1部の女子、また男子には少し変わった眼で見られていた。
 ところが、彼女にとってはそんなこと、どうでも良かったのだ。なぜなら彼女は「「恋」」をしていたから。相手国が中学から一緒の青山 陽輝(あおやま はるき)。
運動神経はそこそこだが、頭が良く、しっかり者で、何よりとても心遣いができる。彼女は何か嫌なことがあっても、彼とはなしているとすぐに忘れることができたのだった。