chapter8 わかって


翌日。目を冷やしながら寝たおかげで、あれほど泣いた割にはあまり腫れていなかったのでひとまず安心する。

そろそろ起きようかなあ、と体を起こした時、バタンとすごい勢いで扉が開いた。

「おい!舞花!」

カツカツと足音を止めることなく一直線にこちらに近づいてくるのはグイードだ。

「グイード、今日は何も無い日ですよね……?こんな朝から女性の部屋に来るなんて非常識ですけど……」

私はまだ完全に覚醒していない頭でもにゃもにゃと文句を言った。ちゃんと頭を回そうと眠たい目を擦る。

そんな私を顎に手を当てながら静かに見下ろしている王子に気づいて、そんな真剣な顔をして何を考えているのかと思えば。

「あれだな……寝起きの妻というものは、こう、乱れて」

「もうっ、ほんとにほんとに最っ低!」

それ以上言わせるものか、と久しぶりのビンタをかます。

薄らと私の手形がついた頬を擦りながらグイードはむっつりと拗ねた顔をした。

「昨日大人しく部屋に返しただけ感謝してほしいくらいだけどな」

その言葉に昨日晒した醜態の数々が今更のようによみがえってきて呻く。ごまかすようにわぁわぁと大声を出した。

「昨日は昨日です!せっ、せめてノックぐらいしてくださいよ!」

「次からは気をつけよう」

その気のない声に、たぶんまた同じことされるんだろうな、と私は項垂れた。

とそこでいつもはブラウスにパンツだけのグイードが今までに見たことがないほどきっちりと正装をしていることに気がつく。

「そんなにちゃんとした格好をしてどうしたんですか?」

グイードは首元を直しながら頷いた。

「気がついたなら話が早いな。俺たちはこれから国王にお会いすることになっている」

「…………冗談ですよね?」

「いや、お前を見てもキスしたいと思う余裕が無いくらいには大真面目だ」

一瞬で眠気が吹っ飛んだ私はベッドから飛び降りた。

「何で突然そんなことに!」

「俺が昨夜、舞花と正式に婚約を結ぶと報告したんだが、そうしたら……婚約発表の場を設ける準備などもあるので一度揃って顔を出すように、と仰られた。
父上が誰かを呼びつけるなんて久しぶりのことでな……俺も驚いているんだが……」