chapter6 委ねて


私は頭の中でつい先刻のシャルキさんの言葉を反芻した。

『本日は殿下のご公務はお休みです。恐らく眠りこけていらっしゃると思うので、朝食の時間を過ぎてもマイカ様のお部屋に顔をお出しにならないようでしたら起こしに行っていただけますか?』

なぜ私は頷いてしまったのだろう。にこりとあの怖い笑顔を浮かべた側近の顔を思い出して後悔していた。

話は通してあるようで、部屋の前に立つ衛兵も扉の前でウロウロと歩き回る私に不審そうな目は向けてくるものの何も言わない。

扉に耳を当てる。……物音はしない。

「う~もう知らないから!」

私は自分の顔の分だけ扉を開けた。

「殿下、起きてますかー」

囁き声で尋ねてみる。答える声はないし、電気は消えたままだ。仕方ない、奥の寝室まで行くしかないようだ。

自分の足音にもびくりとしながら奥へ進む。大きな天蓋付きのベッドがあった。漫画やアニメなんかで見る、如何にも王子様が使っていますという感じのやつだ。想像通り過ぎて少しわくわくする。

そして王子はというと、ふかふかそうな布団に埋もれてこちらを向いてすやすやと寝ていらっしゃるようだ。

「……殿下、起きてください」

小さく声を掛けてみるものの、すう、すう、と規則的な息遣いが聞こえてくるだけだ。

長い睫毛が綺麗な肌に影を落としている。険が抜けた表情は自分より歳上だということが信じられないほど幼く見える。起きている時も今みたいにイラつく表情を浮かべていなければ普通にかなりの美形なのに……とため息をつく。

「かっこいいよね、顔は……」

「お前がそう思っていたのは初耳だな」

「だって言ったら調子乗るでしょうが……っえ?」

ぱっちりと開いた赤の瞳がこちらを見つめていた。相変わらず腹が立つ表情を浮かべて肘をついている。

「おはよう妻よ。朝から寝所に忍び込んでくるとは、意外と……」

「ちっがーう!起こして来いって言われただけですよ!」