chapter5 気になって


今日はいつもは朝から執務で忙しいグイード殿下が珍しく朝食を一緒に摂るらしい。待ちに待った日に、支度が終わり彼が着席した瞬間私はバン!と机を叩いた。

驚いた顔をしてこちらを見る王子と相変わらず後ろに控えているシャルキさんに真っ直ぐ伸ばした指で指し示したのは、今日も今日とて同じ顔をして皿に鎮座しているパイである。

「あの!殿下にずーっとお訊ねしようと思ってたんですけど、これはどういう事なんでしょう?」

「ああ、何かと思えばそのことか」

グイード殿下は凄い形相で睨みつける私を意に介さずに平然として頷く。いや、むしろ自慢げな顔をしている気がするのは気のせいだろうか。

「大変なんだぞ、毎日毎日『本当にいいんですか?いいんですね!?』としつこく訊ねてくる料理長を説得してお前の食事を全てパイにするのは……」

「…………ちょっと待ってください、なんでドヤ顔してるんですか。あなた話してること自分でおかしいって思いません?」

あれ?これおかしいのって私の方?

グイード殿下があまりに堂々と話すのでよくわからなくなりだした頃、彼は不思議そうな表情で首を傾げた。

「なぜそんな顔をする?嬉しいだろう?」

「……へっ……」

私は思ってもみなかった言葉に声をひっくり返らせた。

「だってお前、あの時に酷く喜んでいたじゃないか。だからこれがそれほど好きなのかと思ったんだが」

「いや確かにあの時は嬉しかったんですけど……って、え?」

思わず王子の背後に立つシャルキさんに目を向ける。側近どのはいつかのようにぷるぷる震えながら一生懸命真顔を保とうとして失敗していた。

「や、やっと気づかれたんですか、お二人共……」

それを見て憮然とした表情になったのは王子だ。

「シャルキ、なぜ笑っている」

「だ、だって……確かに距離を詰めたいならお好きな物を差し上げたら喜ばれると思いますよとは申し上げましたけど、まさかここまでするとは思いませんでしたし……マイカ様ったら……嫌がらせ?とか深刻そうな顔で仰るんですもん……」