chapter3 戸惑って


出発してから12時間弱。馬車が幾つ目かの関所を抜ける。その瞬間、今までとは比べ物にならないほどの建物が目に映った。

煉瓦造りの家が建ち並び、どこからか鼓笛隊の楽しそうな音楽も聞こえてくる。手を打つ人々の笑い声に、花売りの少女が可愛らしい格好をして街ゆく人々に愛想を振り撒いている。

とにかくにぎやかで、綺麗で、鮮やかで……私は窓に張り付き外の様子を目で追っていた。

「気に入ったか?」

まあ不本意ながら頷くしかない。まるで物語の中そのもののような光景だった。正直とても胸が踊る。

「ここが王都だ。いいもんだろう?皆に余裕がある」

村の暮らしを皮肉っているのだろうとわかった。私はバレンにユリーナ、村の皆の顔を思い出してグイード殿下からふいっと顔を背けた。

「別に……あなたが威張ることでもないでしょうに。ただの王子じゃないですか」

「……そうだな」

わざと気に障るような物言いをしたのにあっさり肯定されて、私は横目でグイード殿下を盗み見た。伏せ気味の顔からは表情が読み取れない。

何となくいたたまれなくなって私はそれきり口を閉ざした。グイード殿下も何も言おうとしないし、目が合わなくなる。

何か……地雷だったのかな?謝った方がいい……?


「────マイカ様、マイカ様着きましたよ?」

シャルキさんに呼びかけられてハッと我に返る。手を差し出してくれたがエスコートのされ方もわからないのでおっかなびっくり手を載せてぎこちない動作で降りる。グイード殿下はそれを見て鼻を鳴らした。また教養が無いとでも思ったのかもしれない。

王子はぐるりと頭を巡らせて、何かに気がついたように一瞬心底嫌そうに顔を顰めた。そしてすっと表情を消す。不思議に思って彼の視線を辿ると1人の貴婦人がこちらに歩いてきているのがわかった。縦に巻かれた豊かな金髪に遠くからでもはっきりとした色の碧眼。