あの時ーーー雇ってもらったのはいいけれど、あの会社の中で私には所属も何もなかった。

普通は社員さんに挨拶した後「キミの席はここだよ。で、こっちがキミの教育係の〇〇さん」とか何とか言われて仕事に入るんじゃないかと思っていたんだけど。
あっさりと予想は裏切られーーー。

何をしたらいいかと聞けば、「自分が入りたいって言ったのだからここで何をするのか、何ができるのか自分で考えて」と言われて途方に暮れた初日。

光さん、大坪さん、下北さんたちは親切に声をかけてくれたけど、”大和に勝手に仕事を与えるなって言われてるからそれは手を貸してあげられない”って申し訳なさそうにしていた。

それからとにかく社内を観察した。

社長は朝出勤して社員の顔を見るとすぐにどこかにいなくなる。
フラッと返って来てはまたいなくなる。
社長が社内にいると、次々と社員が顔を出してきて何か話をしている。
社長のくせに「大和さん」と呼ばれていて社員との距離が近いけれど、決して軽く扱われているわけじゃなくて社員に信頼されている様子。