デスクワークに励んでいると、下北さんと約束をしていた櫂が会社に現れた。
デスクにいる私と目が合い少しだけ笑みを浮かべ会議室に入って行く。

事務所にいた女性スタッフが櫂の姿を見た途端、誰がお茶出しをするかのじゃんけんが始まった。
支社の事務所にいる女性スタッフは私を入れて3人だけど、今日はハウジングセンターの新人女子スタッフ2名を研修のために支社に連れて来ていたから私を除く4人でじゃんけん。

あいこを3回繰り返した後決まった今日のじゃんけん勝者は杉本さんだった。
意気揚々と給湯室に向かう杉本さんを新人女子たちがため息で送り出す。

「私たち会社にはたまにしか来られないから、桐山さんを近くで見る貴重なチャンスだったのに」
「何でグー出しちゃったかなぁ。ここでパーを出していれば・・・」

たかがお茶出し、されどお茶出し。

「やっぱり桐山さん、極上のイケメンですよね。ああ、もっと近くで見たかった」
「近付いたらイイ匂いとかしそう」
「あ、前に展示住宅に来た時にいい香りしてたよ。どこの香水なんだろう」
「イケメンの香りなら何でもいいから」

彼女たちの会話も面白すぎる。イケメンを女の子に置き換えて、さらに話し手をオジサンに代えても成り立つことに気が付いて心の中で吹き出した。

世の中のオジサンたちも若い女子も考えることは大して変わらないってことだけど、女子が言うとフフッと笑って流されるのに、それがなぜかオジサンたちが口に出すと、いやらしいとかセクハラとか言われちゃう。
あの大崎のセクハラ常務は問題外として、世間一般の無害なオジサンたちが少し気の毒になってしまう。

それでも今は仕事中。
「はい、そろそろその辺で本題に戻って頂戴」と雀の子たちのおしゃべりを優しく遮った。