櫂は車内から私がアパートの部屋に入るのを見届けて帰って行った。

帰宅して換気のために窓を開けた。
夜になってぐっと気温が下がっている。冷たい風が身体を包んで部屋の中にも流れ込んでくる。
ぞくっとして、同時に櫂の言葉を思い出してしまった。

つきまとわれていたって、あの頃櫂はどんなことされていたんだろう。

この闇の中のどこかから自分も誰かに見られていたらどうしようと言いようのない不安感がこみ上げてきて、窓を閉め三重にロックをかけてアパートに装備されているセキュリティのスイッチを入れた。

ソファに腰を下ろすと一気に疲労感に襲われる。

櫂との会話で知らされたあの頃の真実。
自分は何もわかっていなかったのだ。櫂の苦悩と葛藤、そして元カノによるストーカー被害。

櫂に比べて甘えていた自分にどうしようもない嫌悪と罪悪感が押し寄せてくる。
私はただ嫌われ拒絶されて捨てられたんだと思っていた。

「・・・違ったんだ」

あれから櫂はどれほどの時間と労力をかけて彼女と戦ったのだろう。
職場が変わっていたのも関係があるんだろうか。

あの頃の私は櫂にとって頼れる存在ではなかったんだと思うと納得できる。

”灯里の明るさが俺には眩しすぎた”って櫂は言っていたけれど、ただ何も考えていない能天気な小娘だったってこと。

頼りにならないってだけじゃなくて足手まといだったんだろうな。